6 無損失線路の特性インピーダンス

6.1 はじめに

ここでは、分布定数回路におけるダランベールの解と回路方程式を用いて、無損失線路における電圧と電流の関係を明らかにしていきます。電圧と電流は特性インピーダンスと呼ばれる定数によって関係付けられ、分布定数回路における最も重要な特性になります。本ページでは、無損失線路における特性インピーダンスを導いていくことにします。

6.2 電圧と電流の関係を語る方程式

これまでの計算で、無損失分布定数回路の電圧は、ダランベールの解によって表現できることが分かりました。 \[ v(x,t) = f(x-ut) + g(x+ut) \tag{4.15} \]

ただし、uは位相速度で \[ u=\frac{1}{\sqrt{LC}} \tag{4.2} \] であり、電流の方程式も全く同じ形でした。

さて、この辺から電気回路らしい記号にしていくことにしましょうか。fとかgとかでは、いかにも数学的な感じなので、fをv1、gをv2などのように電圧や電流をイメージできる表現に切り替えることにします。

そうすれば、電圧と電流の式はそれぞれ \begin{eqnarray} v(x,t) &=& v_1 (x-ut) +v_2 (x+ut) \tag{6.1a} \\ i(x,t) &=& i_1 (x-ut) +i_2 (x+ut) \tag{6.1b} \end{eqnarray} と表すことになります。

ここで、 \( v_1,v_2,i_1,i_2 \) は任意の関数です。

これらの式を眺めるだけでは、電圧と電流は全く独立していて接点が無いように見えます。しかしながら、2章で導いた基本の回路方程式は、 \begin{eqnarray} -\pdiffA{v}{x} &=& R \ i + L \pdiffA{i}{t} \tag{2.13a} \\ -\pdiffA{i}{x} &=& G \ v + C \pdiffA{v}{t} \tag{2.13b} \end{eqnarray} といったものでした。

この式(2.13)は、まさに電圧と電流の関係を述べている方程式です。ただし、ダランベール解をはじき出すために使った大前提「無損失条件」を適用する必要があります。つまり、式(2.13)にR=0、G=0を代入した \begin{eqnarray} \pdiffA{v}{x} &=& - L \pdiffA{i}{t} \tag{6.2a} \\ \pdiffA{i}{x} &=& - C \pdiffA{v}{t} \tag{6.2b} \end{eqnarray} が、電圧と電流の関係を縁結びする糸の役割を果たしているのです。

6.3 特性インピーダンスの導出

さて、式(6.2b)…電流の空間分布式に、式(6.1a)を代入すると \begin{eqnarray} \pdiffA{i}{x} &=& - C \pdiffA{v}{t} \\ &=& - C \pdiffA{}{t} \Bigl( v_1 (x-ut) +v_2 (x+ut) \Bigr) \\ &=& - C \Bigl( -u \cdot v_1^\prime + u \cdot v_2^\prime \Bigr) \\ &=& C \cdot u \ (v_1^\prime - v_2^\prime ) \tag{6.3} \end{eqnarray} (計算補足1)

ここで出てきた \( C \cdot u\) は定数になるので、まとめて \( Y_0 \) としておきます。 \[ Y_0 = C \cdot u = \frac{C}{\sqrt{LC}} = \sqrt{\frac{C}{L}} \tag{6.4} \]

この新しい定数 \(Y_0\) を使い、式(6.3)をまとめれば、 \[ \pdiffA{i}{x} = Y_0 \ ( v_1^\prime - v_2^\prime ) \tag{6.5} \] と書けます。

電流iを求めるには、偏微分された式(6.5)をxで積分すればよいので、 \begin{eqnarray} i &=& \int \pdiffA{i}{x} \ dx \\ &=& Y_0 \int ( v_1^\prime - v_2^\prime ) \ dx \\ &=& Y_0 ( v_1 - v_2 ) \tag{6.6} \end{eqnarray} (計算補足2)

これで、電流が電圧の関数と直接つながりました。さらに、式(6.1)の電流iのダランベール解を考えると、電圧と電流の関係は最終的に \[ i_1(x-ut) + i_2(x+ut) = Y_0 \Bigr( v_1(x-ut) - v_2(x+ut) \Bigl) \tag{6.7} \] と表すことができます。

式(6.7)は恒等式になるので、右側への進行波である \( i_1 \) と \( v_1 \) 、左方向への進行波(≒主に反射波など)である \( i_2 \) と \( v_2 \) の間にはそれぞれ \begin{eqnarray} i_1 &=& Y_0 \ v_1 \tag{6.8a} \\ i_2 &=& -Y_0 \ v_2 \tag{6.8b} \end{eqnarray} という関係が成り立っています。(補足3)

この \( Y_0 \) は、電圧と電流とを結びつける重要な定数で、伝送線路の特性アドミタンスと呼ばれる量です。しかしながら、この表現方法はあまり使われていません。おそらく、物理単位が抵抗の逆数になってしまう所にあるのでしょう。

そんな事情もあり、その逆数である特性インピーダンス (Characteristic Impedance)の方で表現される場合がほとんどです。おそらく、単位がΩとなることで電気屋さんに馴染み深い表現であるからだと思います。記号としては \( Z_0 \) とか、 \( R_C \) と書かれます。 \[ Z_0 = \frac{1}{Y_0} =\sqrt{\frac{L}{C}} \tag{6.9} \]

この「特性インピーダンス」と同じ意味を持つ用語として、固有インピーダンス(Intrinsic Impedance)、サージインピーダンス(Surge Impedance)または波動インピーダンス(Wave Impedance)などがあります。

特性インピーダンス \( Z_0 \) は、先ほど述べたとおり抵抗と同じオーム[Ω]の単位をもち(補足4)、通常のオーム則と同じように扱うことができます。

つまり式(6.7)が表すように、 \( Z_0 \) が既知ならば、電圧か電流どちらか片方だけの情報を得ることで両方の状態が把握でき、さらには電力までもが容易に求められることを意味します。

こういった便利な特徴があるため、工学的な立場で伝送路を扱う場合には、あらかじめ伝送路の特性インピーダンスを既知とした上で、電圧や電力のみを対象とすることが多くなります。

式(6.9)で表される特性インピーダンスは、無損失の場合に限られた理想的な式で、純粋にLとCだけで特性インピーダンスが決定されることが分かります。他の変数、例えば周波数や電圧の大小などに一切影響を受けません

このような理想化されたものと違い、リアルな伝送線路では必ず損失がありますし、定数ということにしているR、G自体が(厳密にはLも)周波数の影響を受けるので式(6.9)は現実世界では成立しない公式です。

しかしながら、一般的な高周波伝送路では、意外と式(6.9)が近似的に成立するのです(例えば数MHz〜数GHzの同軸ケーブルなど)。ですので、損失が極端に大きいとか低周波帯であるなどの条件を除き、\( \sqrt{L/C} \) が大体の特性インピーダンスであると考えても支障はありません。

式(6.9)は真空中の空間インピーダンスと深い類似性(というか、元々が空間インピーダンスの方がより基礎的な値です・・・)があり、Cを同じ単位[F/m]である誘電率εに、Lを同じ単位[H/m]である透磁率μとおくと、 \begin{eqnarray} Z &=& \sqrt{\frac{\mu_0}{\epsilon_0}} = \sqrt{\frac{\mu_0}{1/\mu_0 c^2}} = \sqrt{c^2 \mu_0^2} = \mu_0 c \\ &\simeq& 4 \pi \times 10^{-7} \times 3 \times 10^8 = 120\pi \mathrm[\Omega] \end{eqnarray} として、約377Ωの真空がもつインピーダンスが算出できます。

6.A 補足

6.A.1 式(6.3)の計算の補足

式(6.3)では、時間tで偏微分した\( v_1 ,v_2 \)が、いつの間にか常微分されて \( v_1^\prime ,v_2^\prime\) となっていますが、詳しい計算過程は以下のとおりです。

まず、電圧v(x,t)を時間tで偏微分するとき、変数変換を施して、 \begin{eqnarray} \xi &=& x-ut\\ \eta &=& x+ut \end{eqnarray} と置きます。つまり、ダランベール解を求めたときと同じことをしてあげます。

すると、式(6.3)の右辺は \begin{eqnarray} \pdiffA{}{t} \Bigl( v_1(x-ut) + v_2(x+ut) \Bigr) &=& \pdiffA{}{t} \Bigl( v_1(\xi) +v_2(\eta) \Bigr) \\ &=& \pdiffA{v_1}{\xi} \pdiffA{\xi}{t} + \pdiffA{v_2}{\eta} \pdiffA{\eta}{t} \end{eqnarray}

ここで、 \begin{eqnarray} \pdiffA{\xi}{t} &=& \pdiffA{(x-ut)}{t} = -u \\ \pdiffA{\eta}{t} &=& \pdiffA{(x+ut)}{t} = u \end{eqnarray} です。

まとめて、 \begin{eqnarray} \pdiffA{}{t} \Bigl( v_1(x-ut) + v_2(x+ut) \Bigr) &=& -u \pdiffA{v_1(\xi)}{\xi} + u \pdiffA{v_2(\eta)}{\eta} \\ &=& -u \frac{d v_1(\xi)}{d\xi} + u \frac{dv_2(\eta)}{d\eta} \\ &=& -u v_1^\prime + u v_2^\prime \end{eqnarray} になります。

注目するところは、式の途中で偏微分が常微分に変わっているところです。つまり式(6.3)右辺で\( v_1^\prime \)などの常微分記号のダッシュが付いているのは、 \( (x-ut) \) を一つの関数(上記の例だとξ)としてみなしたときの微分を意味しています

6.A.2 式(6.6)の計算の補足

式(6.6)において、\( v_1^\prime \)をxで積分するくだりなのですが、詳しくは次のような計算過程になります。

補足6.A.1の続きとして、変数が置換されているという前提があります。 \begin{eqnarray} Y_0 \int \Bigl( v_1^\prime -v_2^\prime \Bigr) dx &=& Y_0 \frac{1}{\pdiffA{\xi}{x}} v_1(\xi) - Y_0 \frac{1}{\pdiffA{\eta}{x}} v_2(\eta) + I_0 \\ &=& Y_0 \Bigl( v_1(\xi) - v_2(\eta) \Bigr) + I_0 \\ &=& Y_0 \Bigl( v_1(x-ut) - v_2(x+ut) \Bigr) + I_0 \end{eqnarray}

ここで、積分定数を\( I_0 \) と置きましたが、これは直流成分であって興味の対象外なので、積分定数をゼロと仮定してしまいます。要するに、直流電流は完全に無視するということです。それから、上の式では、 \begin{eqnarray} \pdiffA{\xi}{x} &=& \pdiffA{(x-ut)}{x} = 1 \\ \pdiffA{\eta}{x} &=& \pdiffA{(x+ut)}{x} = 1 \end{eqnarray} という計算もしています。一般には変数置換された後の原始関数の推測というのは面倒そうな作業ですが、上記の例ではけっこう素直に解けてます。

なお、今回は電流の空間分布の式 \[ \pdiffA{i}{x} = -C \pdiffA{v}{t} \tag{6.2b} \] に、電圧のダランベール解 \[ v(x,t) = v_1 (x-ut) +v_2 (x+ut) \tag{6.1a} \] を代入して、特性アドミタンスと特性インピーダンスを求めましたが、この逆の方法として、電圧の空間分布式 \[ \pdiffA{v}{x} = -L \pdiffA{i}{t} \tag{6.2a} \] に、電流のダランベール解 \[ i(x,t) = i_1 (x-ut) +i_2 (x+ut) \tag{6.1a} \] を代入しても同じ結果が得られます。

その場合は、積分の時点で位相速度uが現れてきますので、試しに計算してみるとその違いが分かるかもしれません。

6.A.3 負方向の進行波のマイナス係数

式(6.8)では、定数であるアドミタンスを通じて、電圧と電流の関係が得られましたが、片方にはなぜか負の係数が付いています。 \begin{eqnarray} i_1 &=& Y_0 \ v_1 \tag{6.8a} \\ i_2 &=& -Y_0 \ v_2 \tag{6.8b} \end{eqnarray}

この理由は、電圧と電流の性質の違いにあります。右方向の波動と左方向の波動が衝突した際、線形回路の性質によって、その点での電圧・電流値がそのまま加算されます。

例えば、右から3Vの振幅の波動、左から2Vの振幅の波動がやってきたら、その衝突点において5Vの電圧が生じます(線形性)。電流も同様で、もし線路の特性インピーダンスが1Ωであれば、右から3Aの波動、左から2Aの波動が衝突することになります。

しかしながら、電流には流れの「方向性」があります。左右から電流が衝突すれば、その点での電流値は打ち消しあい、計算上は3-2=1Aの電流値が観測されるはずです。

これを式で表せば、 \begin{eqnarray} v &=& v_1 + v_2 \\ i &=& i_1 - i_2 = \frac{v_1}{Z_0} - \frac{v_2}{Z_0} \end{eqnarray} となるわけです。いいかえれば、進行波電圧(電位)は単純加算が成り立つが、進行波電流は(電圧を基準として)どちらかを逆相として扱わなければならない、ということです。

もちろん、進行波電圧の片方が負の位相を持っているならば、電圧は打ち消しあい、電流値は加算されるとして考えなくてはなりません。

6.A.4 特性インピーダンスの単位

\[ Z_0 = \frac{1}{Y_0} =\sqrt{\frac{L}{C}} \ \ \mathrm{ [\Omega] } \]

上記の特性インピーダンスの単位がなぜオーム[Ω]になるのかは、MKSA単位だけで考えると厄介なので、 電気系として見慣れた単位を使って確認をしてみます。

まず、「線路の単位長さあたりのインダクタンス」であるLは、 \[ \rm L: \rightarrow \frac{Henry}{Meter}=\frac{Volt \cdot Second }{Ampere \cdot Meter} \] と4つの単位で表すことができます。

それから、「線路の単位長さあたりのキャパシタンス」であるCは、 \[ \rm C: \rightarrow \frac{Farad}{Meter}=\frac{Coulumb}{Volt \cdot Meter}=\frac{Ampere \cdot Second}{Volt \cdot Meter} \] という単位で表せます。

これらの単位で、特性インピーダンスの式を表現すると、 \begin{eqnarray} \sqrt{\frac{L}{C}} \rm : & \rightarrow & \rm \sqrt{\frac{Volt \cdot Second }{Ampere \cdot Meter} \cdot \frac{Volt \cdot Meter}{Ampere \cdot Second}} \\ & = & \rm \sqrt{\frac{Volt^2}{Ampere^2}} \\ & = & \rm \frac{Volt}{Ampere} \end{eqnarray} となり、抵抗の単位である[Ω]と同じ組み立て単位であることが分かります。