ここでは回路方程式から電信方程式に至るまでの計算を行います。ここはほとんど数学の世界になってしまうので、電気回路のイメージから外れてしまいやすい個所。しかも、授業では、よく省略されてしまう所でもあったりします。
一般的な分布定数回路の応用では不要なことも多いのですが、過渡現象を論じるときの基礎となる部分にあたります。
前ページの式
\begin{eqnarray}
-\pdiffA{v}{x} &=& R \ i + L \pdiffA{i}{t} \tag{3.8}\\
-\pdiffA{i}{x} &=& G \ v + C \pdiffA{v}{t} \tag{3.16}
\end{eqnarray}
が分布定数回路を表現する最も基本的な関係式です。この二つの式を使って電信方程式を導きます。電信方程式 (Telegrapher's Equation) とは、伝送路の特性を表す基本的な偏微分方程式で、あらゆる分布定数回路の性質はこの方程式から導かれます。
まずは、電圧式(3.8)について、距離 \( x \) でもう一度偏微分すると、
\begin{eqnarray}
-\pdiffB{2}{v}{x} &=& R \ \pdiffA{i}{x} + L \pdiffC{i}{t}{x} \tag{4.1}
\end{eqnarray}
また、式(3.16)を時間 \( t \) にて偏微分すると
\begin{eqnarray}
-\pdiffC{i}{x}{t} &=& G \ \pdiffA{v}{t} + C \pdiffB{2}{v}{t} \tag{4.2}
\end{eqnarray}
となります。この式(4.2)は、電圧 \( v \) が実数で連続な関数であれば偏微分の順序(x→tとt→xの順)を入れ替えることができるので、
\begin{eqnarray}
-\pdiffC{i}{x}{t} = -\pdiffC{i}{t}{x} \tag{4.3}
\end{eqnarray}
と書き換えておきます。(細かい条件はあるが、一般的な電気回路で使う場合には問題なくできると考えてよい。)
ここで、(4.1)に対して、(4.2)を(4.3)で置き換えた式を代入すれば、
\begin{eqnarray}
-\pdiffB{2}{v}{x}
&=& R \ \pdiffA{i}{x} + L \pdiffC{i}{x}{t} \\
&=& R \left( -Gv-C \pdiffA{v}{t} \right) + L \left( -G \pdiffA{v}{t} -C \pdiffB{2}{v}{t} \right) \\
&=& -LC \pdiffB{2}{v}{t} -(LG+CR) \pdiffA{v}{t} -RGv
\end{eqnarray}
結果として、電圧の距離に関する方程式は
\[
\pdiffB{2}{v}{x} = LC \pdiffB{2}{v}{t} +(LG+CR) \pdiffA{v}{t} + RGv \tag{4.4}
\]
と2階の線形偏微分方程式としてまとめることができます。
式(4.4)は電圧の関数 \( v=v(x,t) \) のみで表した偏微分方程式であり、一般に電信方程式と呼ばれます。この方程式に種々の条件を課して解くことにより、さまざまな伝送線路の性質が明らかになります。
一見、何がなにやら意味不明なこの式ですが、実は、電圧が一次元の波動として伝送線路を伝搬していく現象を表しており、波動方程式の一種に分類されます。
フェーザ/フーリエ表示であれば、
\[
\frac{d^2 V}{dx^2} =\Big( -\omega^2 LC + j\omega(LG+CR) + RG \Big) \ V
\]
といった常微分形式になります。
導き方は電圧のときと同じで、式(3.16)の電流式を距離についてもう一度偏微分し、
\[
-\pdiffB{2}{i}{x} = G \pdiffA{v}{x} + C \pdiffC{v}{t}{x} \tag{4.5}
\]
とした上で、電圧式(3.8)を時間で偏微分し
\[
-\pdiffC{v}{x}{t} = R \pdiffA{i}{t} + L \pdiffB{2}{i}{t} \tag{4.6}
\]
これを(4.5)に代入します。
すると、
\begin{eqnarray}
-\pdiffB{2}{i}{x}
&=& G \ \pdiffA{v}{x} + C \pdiffC{v}{x}{t} \\
&=& G \left( -Ri-L \pdiffA{i}{t} \right) + C \left( -R \pdiffA{i}{t} -L \pdiffB{2}{i}{t} \right) \\
&=& -LC \pdiffB{2}{i}{t} -(LG+CR) \pdiffA{i}{t} -RGi
\end{eqnarray}
となって、こちらも2階の線形偏微分方程式、
\[
\pdiffB{2}{i}{x} = LC \pdiffB{2}{i}{t} +(LG+CR) \pdiffA{i}{t} + RGi \tag{4.7}
\]
が得られます。
フェーザ/フーリエ表示であれば、
\[
\frac{d^2 I}{dx^2} = \Big( -\omega^2 LC + j\omega(LG+CR) + RG \Big) \ I
\]
といった常微分形式になります。
\begin{eqnarray}
\pdiffB{2}{v}{x} &=& LC \pdiffB{2}{v}{t} + (LG+CR) \pdiffA{v}{t} + RGv \tag{4.4} \\
\pdiffB{2}{i}{x} &=& LC \pdiffB{2}{i}{t} + (LG+CR) \pdiffA{i}{t} + RGi \tag{4.7}
\end{eqnarray}
上記、(4.4),(4.6)の2式は、 \( v \) と \( i \) が入れ替わった以外は全く同じ形をした方程式ですが、分布定数回路の全てを表している波動方程式です。
あとは、この式をどのような条件で解いていくかが問題になるのですが、偏微分方程式の性質上、解は簡単には求まらず、種々のテクニックが用いられます。