2.分布定数回路の基礎方程式を導く

2.1 はじめに

浅瀬野です。ここでは電気回路モデルから、分布定数回路の基礎方程式を導くまでの計算を行います。このあたりは電気回路というよりも、数学の計算がメインになってしまうかもしれません。

数式は極力、省略しないで、計算過程が分かりやすいよう努めましたが、お気づきの点や、分かりにくい個所がございましたら、メールにてご連絡いただけると幸いです。

2.2 分布定数回路の基本モデル

分布定数回路の電気回路モデルは図3のように、回路全体に分布している電気回路要素を表すため、微小距離で切り取った伝送線路は集中定数回路で近似できるように見えるという前提で成り立っています。

一般表現
図3 分布定数回路の一般的表現

図3は分布定数回路を近似的に表したものであって、実際にこうなっている訳ではありません。図3と同じものを集中定数回路で組もうとしても、出来上がるのは低域フィルタ(LPF)です。そうなっては、高周波伝送は不可能になりますね。あくまで一様に分布していることが重要で、集中定数のような不連続があってはならないのです。

しかしながら、微分の考え方を使うことで、解析が可能となります。無限小の距離ではさしもの分布定数も集中定数とみなせるようになってきます。次節以降は、そのモデル解析をひたすら続けていくことになります。

2.3 微小区間における等価電気回路モデル


図6 分布定数回路における微小部分の等価電気回路

図3から一部分を抜き出したのが図6の回路です。きわめて小さい距離Δxの間にLRCGが分布していると考えたものです。この回路モデルに限らずいくつかの等価回路はありますが、結局はこの回路に帰着することになります。

図6における注意点ですが、LRCGはいわゆる普通の電気単位ではなく、単位長あたりでの電気単位です。また、電圧vと電流iはどちらも距離x時間tの2変数関数 \( v(x,t) \) と \(i(x,t) \) です。

通常の電気回路では時間tのみの関数を考えるので、連立の常微分方程式になり、比較的容易に解くことができます。一方、分布定数回路では距離xの変数も導入されるため、2変数関数となり、その結果、連立の偏微分方程式になってしまいます。

2.4 回路方程式(1) -電圧-

図6を元に回路方程式を作ります。キルヒホッフの法則により、入出力の電位差について方程式を立てると、

\begin{eqnarray} v(x,t)-v(x + \Delta x,t) = R\cdot\Delta x \cdot i(x,t) + L \cdot \Delta x \cdot \pdiffA{}{t} i(x,t) \tag{2.1} \end{eqnarray}

ここで、\( v(x,t) \)が入力電圧,\( v(x+\Delta x,t) \)が出力電圧であり、左辺はその電位差、言い換えれば電圧ドロップの大きさを表しています。

そして、右辺はその要因を表していて、\( R\cdot\Delta x \cdot i(x,t) \)が抵抗Rによる電圧降下成分、\( L \cdot \Delta x \cdot \partial i(x,t) / \partial t \)がインダクタンスLによる電圧降下成分です。

なお、RやLは単位長あたりの分布定数(Ω/mやH/m)であって、抵抗(Ω)やインダクタンス(H)そのものではないので、計算するためには、必ず距離の単位を持った定数をかける必要があります。ここでは微小距離ΔxがRとLそれぞれに掛けられています。

この中で、\( v(x+\Delta x,t) \)の項は、テイラー展開してしまいます。 \begin{eqnarray} v(x + \Delta x,t) = v(x,t) + \pdiffA{}{x} v(x,t) \Delta x + \frac{1}{2!}\pdiffB{2}{}{x} v(x,t) \Delta x^2 + \cdots \tag{2.2} \end{eqnarray}

このテイラー展開公式を使うと、\( v(x+\Delta x,t) \)という関数が、\( v(x,t) \)と\( \Delta x \)を分けて表現できるのですが、\( \Delta x \)はきわめて微小な距離なので、\( \Delta x \)が2次以上の項は無視(1次近似)できます。すると \begin{eqnarray} v(x + \Delta x,t) \simeq v(x,t) + \pdiffA{}{x} v(x,t) \Delta x \tag{2.3} \end{eqnarray} と簡素な式になります。

ここで、(2.3)を(2.1)に代入して、さらに電圧、電流の表記を簡単にするために、 \( v =v(x,t) \) 及び, \( i=i(x,t) \)とおいて、まとめると \begin{eqnarray} v - \left( v+\pdiffA{v}{x} \cdot \Delta x \right) = R\cdot \Delta x \cdot i + L \cdot \Delta x \cdot \pdiffA{i}{t} \end{eqnarray} という式が立てられて \begin{eqnarray} - \pdiffA{v}{x} \cdot \Delta x = R\cdot \Delta x \cdot i + L \cdot \Delta x \cdot \pdiffA{i}{t} \tag{2.4} \end{eqnarray} といった形で整理できます。

さらに、両辺をΔxで除して、最終的に \begin{eqnarray} - \pdiffA{v}{x} = R \ i + L \pdiffA{i}{t} \tag{2.5} \end{eqnarray}

この(2.5)は分布定数回路での電圧分布を表す、最も基本的な方程式になります。

2.4.2 別のあっさりとした導出方法

(2.1)式を簡単に \begin{eqnarray} \Delta v = R \cdot i \cdot \Delta x + L \cdot \Delta x \pdiffA{i}{t} \end{eqnarray} と置いた上で、両辺を\( \Delta x \)で割ると、 \begin{eqnarray} \frac{\Delta v}{\Delta x} = R i+ L \pdiffA{i}{t} \end{eqnarray} 左辺の極限をとって、 \begin{eqnarray} \lim_{\Delta x \to 0} \frac{\Delta v}{\Delta x} = \lim_{\Delta x \to 0} \frac{v(x,t)-v(x + \Delta x,t)}{\Delta x} = -\pdiffA{v}{x} \end{eqnarray} よって、最終的に \begin{eqnarray} -\pdiffA{v}{x}= R \ i+ L \pdiffA{i}{t} \tag{2.5} \end{eqnarray}

2.5 回路方程式(2) -電流-

前節と同様に図6を元にして回路方程式を立てます。すると、 \begin{eqnarray} && i(x,t)-i(x+\Delta x,t)=\\ && \hspace{4em} G \cdot \Delta x \cdot v(x+\Delta x,t)+C \cdot \Delta x \cdot \pdiffA{}{t} v(x+\Delta x)& \tag{2.6} \end{eqnarray} と、電圧についての方程式よりも、やや複雑になっています。式の意味は、入出力間の電流値の差は、コンダクタンスGとキャパシタンスCに流れる電流量に等しいということです。複雑なのは、テイラー展開しなければならない項が多くなっているせいです。

i(x+Δx,t)のテイラー展開は、電圧の式と全く変わりは無く、 \begin{eqnarray} i(x+\Delta x,t) \simeq i(x,t)+ \pdiffA{}{x} i(x,t) \Delta x \tag{2.7} \end{eqnarray} となります。式(2.7)を(2.6)に代入して方程式を完成させるわけですが、展開項が多いので、まずは式(2.6)の左辺から計算してみることにします。左辺は単純に \begin{eqnarray} i(x,t)-i(x+\Delta x,t) &=& i(x,t) + \pdiffA{}{x} i(x,t) \Delta x \\ &=& -\pdiffA{}{x} i(x,t) \Delta x \tag{2.8} \end{eqnarray} となります。次に(2.6)の第1項目は \begin{eqnarray} G \cdot \Delta x \cdot v(x+\Delta x,t) &=& G \cdot \Delta x \left( v + \pdiffA{v}{x} \Delta x \right) \\ &=& G \cdot v \cdot \Delta x + G \pdiffA{v}{x} \Delta x^2 \\ &\simeq& G v \Delta x \tag {2.9} \end{eqnarray} となります。ここでは、Δxは微小なので、Δxの2乗項を無視して近似しています。また、(2.6)の第2項目も同様に展開すると \begin{eqnarray} C \cdot \Delta x \pdiffA{}{t} v(x+\Delta x,t) &=& C \cdot \Delta x \pdiffA{}{t} \left( v + \pdiffA{v}{x} \Delta x \right) \\ &=& C \pdiffA{v}{t} \Delta x + C \frac{\partial^2 v}{\partial t \partial x} \Delta x^2 \\ &\simeq& C \pdiffA{v}{t} \Delta x \tag {2.10} \end{eqnarray} となります。以上、式(2.8),(2.9),(2.10)を式(2.6)に代入すると、 \begin{eqnarray} -\pdiffA{i}{x} \Delta x = G v \Delta x + C \pdiffA{v}{t} \Delta x \tag {2.11} \end{eqnarray} さらに両辺をΔxで除して、 \begin{eqnarray} -\pdiffA{i}{x} = G v + C \pdiffA{v}{t} \tag {2.12} \end{eqnarray}

この(2.3)は分布定数回路での電流分布を表す、最も基本的な方程式になります。

2.5.2 別のあっさりとした導出方法

(2.6)式を簡単に \begin{eqnarray} \Delta i = G \cdot v \cdot \Delta x + C \cdot \Delta x \pdiffA{v}{t} \end{eqnarray} と置いた上で、両辺を\( \Delta x \)で割ると、 \begin{eqnarray} \frac{\Delta i}{\Delta x} = G v+ C \pdiffA{v}{t} \end{eqnarray} 左辺の極限をとって、 \begin{eqnarray} \lim_{\Delta x \to 0} \frac{\Delta i}{\Delta x} = \lim_{\Delta x \to 0} \frac{i(x,t)-i(x + \Delta x,t)}{\Delta x} = -\pdiffA{i}{x} \end{eqnarray} よって、最終的に \begin{eqnarray} -\pdiffA{i}{x}= G \ v+ C \pdiffA{v}{t} \tag{2.12} \end{eqnarray}

2.6 回路方程式のまとめ

図6の回路モデルから導出された方程式は、以下の二つの式(2.13)に集約されることがわかりました。二つの式は、それぞれ電圧と電流の距離と時間に関する式です。 \begin{eqnarray} -\pdiffA{v}{x} &=& R \ i + L \pdiffA{i}{t} \\ -\pdiffA{i}{x} &=& G \ v + C \pdiffA{v}{t} \tag{2.13} \end{eqnarray}

この後は、この二つの式をもとに解析を進めていくことになります。二つだけ…とはいえど、距離xに時間t、加えてLRCGの4定数と変数の種類は多彩そのものですから心配はありません。

2.7 補足

2.6.1 2変数関数のテイラー展開

2変数関数 f(x,y)をTaylor展開すると、以下のようになります。 \begin{eqnarray} f(a+h,b+k) &=& f(a,b) + \left( h \pdiffA{}{x} + k \pdiffA{}{y} \right) f(a,b) \\ && \hspace{4em} + \frac{1}{2!} \left( h \pdiffA{}{x} + k \pdiffA{}{y} \right)^2 f(a,b) \\ && \hspace{5em} + \cdots \frac{1}{(n-1)!} \left( h \pdiffA{}{x} + k \pdiffA{}{y} \right)^{(n-1)} f(a,b) \end{eqnarray} 前述した展開計算においては、hがΔxに相当し、かつ、k=0に相当するため、結果的に \begin{eqnarray} v(x + \Delta x,t) = v(x,t) + \pdiffA{}{x} v(x,t) \Delta x + \frac{1}{2!}\pdiffB{2}{}{x} v(x,t) \Delta x^2 + \cdots \end{eqnarray} となります。