郵政省の工担制度発足から20年目となる平成17年(2005)、資格制度が抜本的に見直されることになりました。この章ではアナログ/デジタルの旧制度から現行のAI/DD制度への移行について紹介していきます。
この時代からはWeb資料がそれなりに残っているのが嬉しい。
平成16年(2004)9月6日、総務省は新資格制度の提案発表とそれに伴う意見募集を開始しました。AI種、DD種という新資格名称がデビューしたのはこの時です。事前に何の情報もなく、突然のパブリックコメントという印象。
今では制度改正に対するパブコメも当たり前となりましたが、この頃はようやくWebも普及してきたと言える頃でもあって、資格制度の意見募集は大変珍しいものでした。法的には必須のものではなく「任意案件」とされています。
総務省は、IP化の進展に伴う電気通信回線設備及び端末設備の変化・発展を受け工事担任者資格に関する制度の改正を検討しており、工事会社及び学識経験者の意見も踏まえ、このたび別紙のとおり改正の概要(案)を取りまとめましたので、以下のとおり意見の募集を行います。
1 改正の概要(案)の骨子アナログ電話及び総合デジタル通信サービスに係る接続を工事の範囲とするアナログISDN種(仮称。以下「AI種」という。)、ブロードバンドインターネット等デジタルデータ伝送に係る接続を工事の範囲とするデジタルデータ種(仮称。以下「DD種」という。)を創設し、その規模等により第一種、第二種及び第三種に区分します。 なお、制度改正後においては、一部例外を除き現行の資格区分による資格者証の交付は行わないこととしますが、現行の資格者証についてはその名称、工事範囲において今後も有効な資格とします。
基本的な考え方は、デジタル(回線交換/パケット交換)といった既に無意味化した分類を捨てて、今後の主流となるIP系回線を「DD種」として主軸に据えた事。旧来からのレガシーサービス対応資格を「AI種」として1本化したことです。
平成17年(2005)2月7日、パブコメ結果の公表と詳細案が提示され再度の意見募集が行われました。そして、3月23日に最終の意見公表と総務省回答がなされます。
その1ヵ月後、4月22日に省令が改正され8月1日から施行。平成17年度第2回試験から新制度が適用となりました。
2005年の制度改正の発端は、1985年時点の枠組みに限界が出ていたことが挙げられるでしょう。初期のデジタル種はDDX用ですのでIP/EthernetどころかISDNサービス前です。
21世紀に入り、デジタル系通信はIP/Ethernetへ収束する傾向が強まり、ISDNすら2001年をピークに勢いが衰え始めました。新旧の回線が混在していたこの時ほど多様性に富んだアクセス回線が存在した時期は他に無かったと思います。
『一般家庭ISDN工事用』として創設されたデジタル3種は、192kbps制限のためADSL、FTTH、CATVといったMbpsクラスの新家庭用アクセス回線の台頭により使い道が制限されていきます。
『回線交換サービス』用のデジタル2種は、オリジナルのサービスが2003年に消滅したのと、TELEXサービスも無くなったことで、主要現存回線にパケット通信しか存在しない事態に。ゆえに残された使い道は「デジタル3種相当」という存在を全否定される状態に陥ります。
以上より、資格制度が現実に追いついていないのは明らかで、一般家庭の工事にもデジタル1種か総合種と言う最上位の資格を要する制度と化してしまっている訳ですね。
そして、もう一つ重要な契機は「工担受験者の減少」であるようです。
全工担種別の申請者数推移(1985–2005)
デジタル3種が増えた平成10年(1998)から受験者の減少傾向が鮮明になり、 1998–2005 年までの間、毎年 7.4千人の割合で減少しています。(71千人→26千人)
この対策の一環として、平成16年(2004)2月、総務省内に工担試験に関する検討連絡会が設置され、以後、制度改正に向けた動きが始まり9月のパブコメに至ったようです。
平成17年(2005)の改正スキームは、アナログとデジタルという伝送路信号の形式分類をある程度残しつつ、旧来のレガシー回線とIP系回線という区分への変更でした。
アナログ伝送路設備(アナログ信号を入出力とする電気通信回線設備をいう。以下同じ。)に端末設備等を接続するための工事及び総合デジタル通信用設備に端末設備等を接続するための工事
アナログ伝送路設備に端末設備等を接続するための工事(端末設備等に収容される電気通信回線の数が五十以下であつて内線の数が二百以下のものに限る。)及び総合デジタル通信用設備に端末設備等を接続するための工事(総合デジタル通信回線の数が毎秒六十四キロビット換算で五十以下のものに限る。)
アナログ伝送路設備に端末設備を接続するための工事(端末設備に収容される電気通信回線の数が一のものに限る。)及び総合デジタル通信用設備に端末設備を接続するための工事(総合デジタル通信回線の数が基本インタフェースで一のものに限る。)
デジタル伝送路設備(デジタル信号を入出力とする電気通信回線設備をいう。以下同じ。)に端末設備等を接続するための工事。ただし、総合デジタル通信用設備に端末設備等を接続するための工事を除く。
デジタル伝送路設備に端末設備等を接続するための工事(接続点におけるデジタル信号の入出力速度が毎秒百メガビット以下のものに限る。)。ただし、総合デジタル通信用設備に端末設備等を接続するための工事を除く。
デジタル伝送路設備に端末設備等を接続するための工事(接続点におけるデジタル信号の入出力速度が毎秒百メガビット以下であつて、主としてインターネット接続のための回線に限る。)。ただし、総合デジタル通信用設備に端末設備等を接続するための工事を除く。
アナログ伝送路設備又はデジタル伝送路設備に端末設備等を接続するための工事
レガシー回線は、従来どおり「収容回線数」に応じてクラス分けとなり。Analog ISDN 種(AI種)にまとめられました。
IP系回線は、Digital Data 種(DD種)のカテゴリとなり、従来のデジタル種からISDNだけを抜いた上で、「速度」と「用途」に応じた分類へ。旧デジタルよりも範囲が狭くなってます。
DD種は速度によるクラス分けが始まりました。高速回線であるほど技術力が必要という考え方です。
1998年のデジタル3種には既に192kbpsの制限がありましたが、これは速度制限が主ではなく単に「192kbps」=「ISDN基本インタフェース」=「家庭用1回線」を指定したいがための迂遠な表現です。
オールマイティなDD1はよいとして、DD2種は全回線100Mbpsまで、DD3種はインターネットなら100Mbpsまでという何だか歯切れの悪い感じ。
これも「DD3種」=「家庭用BB回線」を意図した表現ですね。2005年当時、家庭用ブロードバンドアクセス回線が100Mbpsを超えることはなく、普及と競争が著しかったADSLでも50Mbpsあたりが規格上限、FTTHですら100Mbpsでした。「主として」の表現にはIP電話サービス(050)が存在していた事情があると思います。
新制度移行そのものについては、当時、さほど反対意見が出ていなかったように思います。老朽化した制度という観点では異論が無かったのでしょう。
反対意見が多かったのは既存の旧資格に関する扱いです。
通信系の資格制度が更新される場合、旧資格は新資格へのみなしが適用されることが多いのですが、本改正では実質的に廃止して効力は継続するという新旧制度並存のやや不思議な制度となりました。
ちなみに総務省自身は「今般の改正により、現行資格から新資格への移行を促すものではない。」と回答していたりします。
例えば、「旧総合種」と「新総合種」は1文字1句違わず同じ工事監督範囲が規定されていますが、あくまで別種の資格。新総合種を取得するためには改めて受験が必要なのです。(でも取得は必須でなく旧資格でも仕事が出来る。)
当初案では旧総合種でAI種全科目免除が可能とされており、試験申請は必要そうなものの、実質的な新資格移行措置と受け取られていたものです。ところが、2月案の段階で削除されてしまいました。
同様にデジタル3種はAI3種へ自動移行しても良いのではと意見もありましたが、これも実現しませんでした。新旧はあくまで異なる資格というスタンスなので、新制度の受験が必要なのです。(でもAI3種相当の業務であれば再取得不要。)
その一方で、パブコメの意見が通って実現した制度があります。旧総合種+DD1種技術=新総合種というのは個人の指摘によって実現したものでした。
総論としては、実務者への影響を避けるため旧資格は引き続き認めるようにする。新資格が必要であれば改めて受験するか、養成課程を受講すべしという制度になったと言えるでしょう。
2005年改正に伴い、資格種別以外にも工担に関するさまざまな状況も変わったのでそれを紹介していきます。
まずは工担に努力義務規定が出来ました。
これに応じて、デ協は2005年12月「情報通信エンジニア」制度を創設します。
次に大きく変わったのは「多様なメディアを高度に利用して行う授業」というeラーニングの養成課程が認められたことです。
これに応じて、デ協は2006年2月からeラーニング養成課程である「eLPIT」の認可を受けます。2019年末時点で延べ1万7千名を超える受講者数実績を有する最大手の養成課程コースとなりました。
で、本題の受験会場ですが、新制度最初の試験となった平成17年度第2回試験(2005-11-27)で一挙に7会場増となり、計31会場で実施されています。
平成16年度第2回(2004-11-28)までは22会場だったものの、制度変更前後で急激に数を増やしたのです。とかく受験者を増やそうとする努力が感じ取れます。
実施回 | 会場(増) | 会場(減) | 会場数 |
---|---|---|---|
S61-2 | 新潟 | ― | 12 |
S63-1 | 米子 | ― | 13 |
S63-2 | 福岡 | ― | 14 |
H01-1 | 高松 | ― | 15 |
H09-1 | 宮崎 | ― | 16 |
H10-1 | 小山 | ― | 17 |
H10-2 | 静岡 | ― | 18 |
H12-1 | 旭川,秋田,甲府 | ― | 21 |
H15-1 | 岡山 | ― | 22 |
H17-1 | 盛岡,横浜 | ― | 24 |
H17-2 | さいたま,富山,津, 神戸,周南,徳島,大村 |
― | 31 |
H18-1 | 市川,京都 | ― | 33 |
H18-2 | 郡山,鹿児島 | ― | 35 |
H24-2 | 青森,和歌山 | ― | 37 |
H25-1 | 土浦 | ― | 37 |
H27-1 | 大分 | ― | 39 |
H30-1 | ― | 富山,大分 | 37 |
備考1:基本11会場は記載省略(札幌,仙台,東京,金沢,長野,名古屋,大阪,広島,松山,熊本,那覇)
備考2:幾つかの地域は周辺地域と入れ替わることがある。有名なのは東京都「町田」と神奈県「横浜」の例。たびたび入れ替えがあった。同様の例として「那覇」と隣接の「西原町」の他、「土浦」→「水戸」(H28-1)、「市川」→「千葉」(H30-2)が挙げられる。
平成21年(2009)から、科目合格の有効期間が延長されました。
歴史的に見ると、工担の科目合格期間は徐々に延長されてきました。旧公衆法時代の工担では翌年の試験まで。当時は試験が年1回なので次回試験までの有効の意味になります。延長されたのは昭和40年(1965)のことで、翌々年=2年間の期限に延長されました。
新工担となった昭和60年(1985)からは、試験は年2回実施となりましたが、2年間の科目有効期限はそのまま継続されたのでした。なので、4回受験のチャンスができたことになります。
そして、平成21年度第2回試験(2009-11-22)の科目合格からは有効期間が3年間になりました。ただし、それ以前の科目合格についての遡及適用はありません。(平成21年6月30日総務省令第75号)
契機は工担というよりは電気通信主任技術者の方で、総務省のIPネットワーク管理・人材研究会で、受験インセンティブ増加のために科目合格期間の延長が提言されたことによります。
平成25年(2013)1月、100Mbps制限のあったDD3種の回線速度が、 1Gbps まで拡大されました。併せてDD2種も改正されています。
デジタル伝送路設備に端末設備等を接続するための工事(接続点におけるデジタル信号の入出力速度が毎秒百メガビット(主としてインターネットに接続するための回線にあつては、毎秒一ギガビット)以下のものに限る。)。ただし、総合デジタル通信用設備に端末設備等を接続するための工事を除く。
デジタル伝送路設備に端末設備等を接続するための工事(接続点におけるデジタル信号の入出力速度が毎秒一ギガビット以下であつて、主としてインターネットに接続するための回線に係るものに限る。)。ただし、総合デジタル通信用設備に端末設備等を接続するための工事を除く。
この頃には、家庭用アクセス回線もギガビット化が進んでおり、DD2種/DD3種の滅亡を防ぐための措置と思われます。
2005年改正でも、パブコメで100Mbps制限についての意見があり、将来Gbps化した場合はどう対応するのかという質問に対して「電気通信サービスや技術の変遷に応じ、適宜適切に範囲の見直しを行っていく予定である。」と回答しているのですが、これを実践した形になるでしょう。
改正の流れが始まったのは、平成24年(2012)11月20日の総務省報道発表、意見募集からとなります。改正の目玉は「受験料」の値下げに関するものと、工担の1Gbps化でした。
ちなみに、この文章を書いた2020年時点では、1Gbpsを超えるFTTHサービスも普通にあって10Gbpsまでメニューが存在します。資格に速度制限を含める限り、今後もこういった速度改正の流れが続く可能性があると見ています。
本改正で少し謎に思ってるのは文言の変更。「インターネット接続のための回線に限る」とあったのが、「インターネットに接続するための回線に係るものに限る。」となりました。なぜこのように変更したのかはまだ考察できていません。