日本帝国電信条例

解説

本法令は、明治政府が出した日本における最初期の電気通信法規です。第3条で政府専掌主義、第13条で通信の秘密が明記されています。これ以前は明治2年の「伝信機の布告七箇条」、大日本政府電信取扱規則(明治6年)が代表的なものです。

まだ憲法も議会も無い時代ですので、現代の法文とはかなり異なっています。

この後、明治18年に改めて「電信条例」として全部改正され、明治23年に電信線電話線建設条例、明治33年に電信法が施行されて明治期の法的枠組みが完成していきます。

日本帝国電信条例

太政官布告第九十八號

明治七年九月二十二日 (輪廓附)

電信條例別册ノ通󠄁相定本年十二月一日ヨリ施行候條此旨布告候事
(別册
日本帝國電信條例
  1. 第一條
    1. 此條例ハ日本帝國政府電信寮ニ於テ所󠄁轄スル處ノ電機上ニ施行スルナリ
  2. 第二條
    1. 此條例中ニ用ユル電報(テレカラム)ノ語ハ百般ノ音信總テ電機ヲ以テ傳送󠄁シ又ハ傳送󠄁セント欲スルモノヲ指テ言フナリ
  3. 第三條
    1. 日本政府電信寮ハ日本帝國外ノ各地ヘ又ハ各地ヨリ傳送󠄁スル電報ヲ除キ日本帝國中ニ電報ヲ傳送󠄁シ及ヒ受取リ取集メ屆渡等一切關係ノ事務ヲ取扱フ專任ノ權ヲ有ス
  4. 第四條
    1. 何人ニテモ不法故意ヲ以テ電槽器械柱木信線若シクハ其線ヲ覆フ匣蓋管筒或ハ支凸腕木枷木陶器海底線浮󠄁標旗竿號報柱及ヒ電機並ニ其付屬一切ノ物品ヲ毀傷スル者或ハ此ノ電機ニテ通󠄁信ノ傳送󠄁携致又屆渡シヲ如何樣ナル仕方ニテモ妨碍スル者其他上件ノ枷木支凸腕木ヲ拔ル者ハ五百圓ヨリ多カラサル罰金又ハ三月ヨリ長カラサル懲役或ハ禁獄ニ處
    2. 但シ過󠄁誤󠄁失錯ニ出ル者ハ其ノ損害ノ多少ニ隨テ償金ノミヲ出サシム
  5. 第五條
    1. 電機掛リ官員及ヒ改役或ハ其他ノ官員又ハ何人ニテモ電信寮ノ事務ニ從事スル際之ヲ攻打シ或ハ粗暴ノ擧動ヲナシ其ノ事業ニ妨碍抗抵ヲ爲ス者ハ五百圓ヨリ多カサル罰金又ハ三ヶ月ヨリ長カラサル懲役或ハ禁獄ニ處
  6. 第六條
    1. 何人ニテモ不法ニ柱木枷木海底線信線旗竿浮󠄁標其他電機又ハ其付屬一切ノ物品ニ馬又ハ其他ノ獸畜或ハ舟筏等ヲ繋ク者ハ其所󠄁行ニ依テ損害ノ有無ヲ論セズ壹百五拾圓ヨリ多カサル罰金又ハ四十二日ヨリ長カラサル懲役或ハ禁獄ニ處
  7. 第七條
    1. 何人ニテモ柱木信線陶器旗竿腕木枷木支凸號報柱浮󠄁標其他ノ物品ヘ瓦礫若シクハ雜物ヲ投擲シ又矢箭火器ヲ彈射スル者ハ其所󠄁行ニ依テ毀傷ノ有無ヲ論セス壹百五拾圓ヨリ多カサル罰金又ハ四十二日ヨリ長カラサル懲役或ハ禁獄ニ處
  8. 第八條
    1. 何人ニテモ電線ノ近傍ニテ紙鳶ヲ飛シ信線陶器腕木枷木支凸其他電機ニ屬スル物品ヘ紙鳶又ハ其付屬ノ絲等ヲ引掛ケ電氣ノ妨碍ヲ生セシムル者ハ拾圓ヨリ多カサル罰金又ハ七日ヨリ長カラサル懲役或ハ禁獄ニ處
  9. 第九條
    1. 何人ニテモ不法故意ヲ以テ政府電信寮ヨリ其局々或ハ電線沿道ノ所󠄁々ニ取建タル標識揭示等ヲ削󠄁シ又ハ拔去者ハ五拾圓ヨリ多カサル罰金又ハ四十二日ヨリ長カラサル懲役或ハ禁獄ニ處
  10. 第十條
    1. 何人ニテモ不法ニ電機用ノ一部分タル柱木旗竿信線支線支柱ヘ攀チ又ハ同樣ノ浮󠄁標ニ乗ル者ハ其所󠄁行ニ依テ妨害ノ有無ヲ論セス貳拾五圓ヨリ多カサル罰金又ハ二十一日ヨリ長カラサル懲役或ハ禁獄ニ處
  11. 第十一條
    1. 何人ニテモ不法故意ヲ以テ柱木浮󠄁標其他一切電機付屬ノ物品ヘ落書圖又ハ鐫刻スル者ハ拾圓ヨリ多カサル罰金又ハ七日ヨリ長カラサル懲役或ハ禁獄ニ處
  12. 第十二條
    1. 電機掛官員及ヒ改役或ハ其他ノ官員何人ニテモ他人ヘ屆渡スヘキ電報ヲ故意ヲ以テ隱匿シ又ハ電信寮ヨリ電報ヲ屆渡スヘキ命令ヲ怠リ或ハ肯セサル者ハ五拾圓ヨリ多カサル罰金又ハ四十二日ヨリ長カラサル懲役或ハ禁獄ニ處
  13. 第十三條
    1. 電信寮ニ仕官スル者故意怠慢ヲ以テ音信ノ傳送󠄁又ハ屆渡スコトヲ忘却遲延スル者又ハ同樣ノコトニ依テ音信ノ傳送󠄁渡シヲ妨碍遷延セシムル者又ハ猥リニ音信ノ旨趣ヲ傳洩スル者又ハ他ノ人民又ハ電信寮ノ官員ト雖モ其場ニ立入ヘキ職務ニ非サル者ヲ電信寮ノ器械室ニ立入ラセ又ハ滯居セシムル者等以上ノ各犯ハ壹百圓ヨリ多カサル罰金ニ處
  14. 第十四條
    1. 凡此條例中ニ記載シタル箇條ヲ顯然犯サント企ル者ハ五拾圓ヨリ多カサル罰金又ハ四十日ヨリ長カラサル懲役或ハ禁獄ニ處
  15. 第十五條
    1. 凡此條例ヲ犯シテ電信寮所󠄁轄ノ物品ヲ毀傷シ又ハ他人ノ損失妨害ヲ生スル者ハ例ニ照シテ處分スルノ外其毀傷損失ノ償金ヲ出サシム
    2. 但工部省所󠄁管電信私線ノ分モ總テ此條例ニ準シ處分ス
  16. 第十六條
    1. 凡犯人ヲ處斷シ罰金並ニ償金ノ額ヲ定ムルハ總テ裁判󠄁官ノ權内ニ屬
  17. 第十七條
    1. 凡ソ犯罪ノ形狀ヲ裁判󠄁官ヘ報告シ其處分ヲ乞フ手順ハ工部省ニテ取扱フノ權ヲ有ス

明治12年改正(17条削除)

太政官布告第十八號

明治十二年五月十四日 (輪廓附)

明治七年九月第九十八號布告電信條例第十七條刪除候條此旨布告候事

明治18年廃止(抜粋)

太政官布告第八號

明治十八年五月七日 (輪廓附)

電信條例別册ノ通󠄁改定シ明治十八年七月一日ヨリ施行ス
但明治七年九月第九拾八號布告十二年五月工部省第九號布達其他本條例ニ牴スル從前ノ布告布達ハ右施行ノ日ヨリ廢止ス

原典などの情報

入力条文の原本は、国立国会図書館 近代デジタルライブラリー、明治7年法令全書(pp128-130)(国立国会図書館)を使用しました。

なお、本ページのテキストにおいては、旧字体、異体字については完全に表現できていないため、字体のみですが若干の相違があります。

それから、冒頭に輪郭付(正確には輪廓付)とあるのは明治初期(明治6年~16年)の法令の形式の一つで、輪郭線で法令を囲むことによって永続的な公布文であることを示しています。現代で言うところの法律に相当するものですが多少いいかげんのようです。一時的なもの(短期の告示的な内容)は輪郭が無いことになっています。

明治6年太政官達第393号にて、「自今じこんなが遵守じゅんしゅキモノ」が輪郭附、「一時可心得こころえるべきモノ」が輪郭なしと決められていました。

冒頭から「候條そうろうじょう此旨このむね布告候事そうろうこと」と、現代の我々にはかなり読みにくい法文です。 (言文一致運動が始まる前、日本語の形が固まる前でもあってしょうがないですが。)