電信線電話線建設条例

解説

本法令は、明治政府が出した公衆通信用途にかかわる他人の土地(特に民間所有地や公道・私道)の使用、占有に関する法令です。当時の電気通信事業は日本政府直営ですが、この法律ができるまでは、慣例で処理していた模様。

道路や私有地に電柱(電信柱)を自由に建ててよいお墨付きを与える根拠法令になりますが、これは逓信省以外の官有地にも適用できるやや強権的なものでもあったため、後に自動車交通が発達すると道路を管轄する内務省と対立する要素も出て来たようです。

時代的にはちょうど東京―横浜間で電話交換サービス(同年12月16日)が開始される直前であり、また、帝国憲法は発布後(同年2月11日)かつ施行直前(11月29日施行、同時に第1回帝国議会開会)というタイミングであるので、国会ではなく元老院と閣議による制定となっています。

現代では、電気通信事業法の第3章を割き「土地の使用等」という形で本条例が引き継がれています。

○電信線電話線建設条例(明治23年制定時)

朕電信線電話線建󠄁設條例ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム

御名 御璽

明治二十三年八月六日

内閣總理大臣 伯爵 山縣有朋

遞信大臣 伯爵 後藤象二郎

法律第五十八號
電信線電話線建󠄁設條例
  1. 第一條
    1. 遞信省ニ於テ公衆通󠄂信ノ用ニ供スル電信線電話線ヲ建󠄁設スル爲民有ノ土地又ハ營造物ノ使用ヲ要スルトキハ所󠄁有者及其他ノ權利者之ヲ拒ムコトヲ得ス
    2. 官有ノ土地又ハ營造物ハ其ノ所󠄁管廳ニ通󠄁知シテ之ヲ使用スルコトヲ得
  2. 第二條
    1. 公衆通󠄁信ノ用ニ供スル電信線電話線ノ建󠄁設ニ從事スル者其建󠄁築修理及線路測量ノ爲必要ナルトキハ他人ノ所󠄁有地ニ入ルコトヲ得
    2. 其邸宅構内ニ入ルヲ要スルトキハ所󠄁有者其ノ他ノ權利者ニ通󠄁知スヘシ
    3. 前二項ノ場合ニ於テハ主務者タルノ證標ヲ携帶スヘシ
  3. 第三條
    1. 遞信省ハ公衆通󠄁信ノ用ニ供スル電信線電話線ノ建󠄁設又ハ通󠄁信ニ障碍アル瓦斯支管水道支管下水支管電燈線電力線及私設電信線電話線所󠄁有者又ハ其他ノ權利者ニ命シテ移轉セシムルコトヲ得
    2. 其建󠄁設通󠄁信ニ障碍アル竹木其他ノ植物ハ已ムヲ得サルモノニ限リ之ヲ伐除シ若クハ所󠄁有者又ハ其他ノ權利者ニ命シテ之ヲ伐除又ハ移植セシムルコトヲ得
  4. 第四條
    1. 遞信省ニ於テ公衆通󠄁信ノ用ニ供スル電信線路電話線路ノ測量ヲ爲シタルトキハ電柱ノ建󠄁設ヲ要スル場所󠄁ニ測標ヲ設置スルコトヲ得
  5. 第五條
    1. 公衆通󠄁信ノ用ニ供スル電信線路電話線路ヲ移轉スル必要アル者ノ請󠄁求ニ由リ遞信省ニ於テ之ヲ許可シタルトキハ其移轉費用ハ請󠄁求者之ヲ負擔スルモノトス
  6. 第六條
    1. 遞信省ニ於テ民有地ニ電信線電話線ノ柱木ヲ建󠄁設シタルトキハ一本每ニ一箇年四錢ノ手當金ヲ給與ス但所󠄁有者其他ノ權利者ニ於テ手當金ヲ望マサルトキハ此限ニアラス
  7. 第七條
    1. 左ニ揭タルモノハ其要求ニ對シ遞信省之ヲ補償スヘシ
      1.  建󠄁築修理及線路測量ノ爲生シタル損害
      2.  瓦斯支管水道支管下水支管電燈線電力線及私設電信線電話線ヲ移轉シタル費用
      3.  伐除シタル竹木其他植物ノ代價又ハ移植ノ費用
  8. 第八條
    1. 第七條ノ補償金額ハ雙方協議之ヲ定メ若シ其議相協ハサルトキハ市町村長(未タ市制町村制ヲ實施セサル地方ハ區戶長)ヲシテ之ヲ評󠄁定セシム
    2. 市町村長ノ評󠄁定ニ服セサル者ハ其評󠄁定ノ通󠄁知ヲ受ケタル日ヨリ一箇月以内ニ裁判󠄁所󠄁ニ出訴スルコトヲ得

昭和二十四年改正(抜粋)

○法律第百六十一号
郵政省設置法及び電気通信省設置法の施行に伴う関係法令の整理に関する法律
  1. 第十三条
    1. 電信線電話線建設条例(明治二十三年法律第五十八号)の一部を次のように改正する。
      1. 第一条第一項、第三条第一項及び第四条から第七条まで中「逓信省」を「電気通信省」に改める。

昭和二十七年改正(抜粋)

○法律第二百五十一号
日本電信電話公社法施行法
  1. (電信線電話線建設条例の改正)

    第十九条
    1. 電信線電話線建設条例(明治二十三年法律第五十八号)の一部を次のように改正する。
      1. 第一条第一項、第四条、第六条及び第七条中「電気通信省」を「日本電信電話公社」に改める。
      2. 第三条を次のように改める。
        1. 第三条 日本電信電話公社ハ公衆通信ノ用ニ供スル電信線電話線ノ建設又ハ通信ニ障害アル竹木其他ノ植物ハ巳ムヲ得ザルモノニ限リ之ヲ伐除シ又ハ移植スルコトヲ得
      3. 第五条中「電気通信省」を「日本電信電話公社」に、「許可シタル」を「承認シタル」に改める。

昭和二十八年廃止(抜粋)

○法律第九十八号
有線電気通信法及び公衆電気通信法施行法
  1. (電信線電話線建設条例等の廃止)

    第二条
    1. 左の法律は、廃止する。
      1. 電信線電話線建設条例(明治二十三年法律第五十八号)
      2. 電信法(明治三十三年法律第五十九号)
      3. 電信電話料金法(昭和二十三年法律第百五号)
  2. 附則
    1. この法律は、昭和二十八年八月一日から施行する。

新字体・現代風の書き換え版(参考)

旧字を現行の標準的な新字に書き換え、またカナをひらがなに、送り仮名や接続詞を現代風に付け直しました。内容は改変により正確とは言えないため、あくまで参考です。

法律第五十八号
電信線電話線建設条例
  1. 第一条
    1. 逓信省に於いて公衆通信の用に供する電信線電話線を建設するため民有の土地又は営造物の使用を要するときは所有者及びその他の権利者之を拒むことを得ず。
    2. 官有の土地又は営造物はその所管庁に通知して之を使用することを得。
  2. 第二条
    1. 公衆通信の用に供する電信線電話線の建設に従事する者その建築修理及び線路測量のため必要なるときは他人の所有地に入ることを得。
    2. その邸宅構内に入るを要するときは所有者その他の権利者に通知すべし。
    3. 前二項の場合に於いては主務者たるの証標を携帯すべし。
  3. 第三条
    1. 逓信省は公衆通信の用に供する電信線電話線の建設又は通信に障害あるガス支管、水道支管、下水支管、電灯線、電力線、及び私設電信線電話線所有者又はその他の権利者に命じて移転せしむることを得。
    2. その建設通信に障害ある竹木その他の植物はやむを得ざるものに限り之を伐除し若しくは所有者又はその他の権利者に命じて之を伐除又は移植せしむることを得。
  4. 第四条
    1. 逓信省に於いて公衆通信の用に供する電信線路電話線路の測量を為したるときは電柱の建設を要する場所に測標を設置することを得
  5. 第五条
    1. 公衆通信の用に供する電信線路電話線路を移転する必要ある者の請求により逓信省に於いてこれを許可したるときはその移転費用は請求者之を負担するものとす。
  6. 第六条
    1. 逓信省に於いて民有地に電信線電話線の柱木を建設したるときは一本毎に一ヶ年四銭の手当金を給与す。但し所有者その他の権利者に於いて手当金を望まざるときはこの限りにあらず。
  7. 第七条
    1. 左に掲げたるものはその要求に対し逓信省之を補償すべし。
      1.  建築修理及び線路測量の為生じたる損害
      2.  ガス支管、水道支管、下水支管、電灯線、電力線及び私設電信線、電話線を移転したる費用。
      3.  伐除したる竹木その他植物の代価又は移植の費用。
  8. 第八条
    1. 第七条の補償金額は双方協議之を定め、もしその議相協あいかなわざるときは市町村長(未だ市制町村制を実施せざる地方は区戸長)をして之を評定せしむ。
    2. 市町村長の評定に服せざる者はその評定の通知を受けたる日より一ヶ月以内に裁判所に出訴することを得。

ノート

出典

本文書は国会図書館が公開する官報(明治23年8月6日)法令全書(明治23年)をテキスト化したものです。必要がある場合は上記URLを参照ください。

旧字体・書体の表現について

テキスト化にあたり、旧字等の書体(「建」、「支」)については表現ができておりません。ただし、一部の漢字(「所」→「所󠄁」、「通」→「通󠄁」、「請」→「請󠄁」、「評」→「評󠄁」、「判」→「判󠄁)はIVD/IVS対応のフォントとブラウザを使用することで表示できる可能性があります。(上に並んだ2字が異なって見えるはずです。)

具体的には、2016年時点においてAdobe-Japan1-6に準拠した「小塚ゴシック Pr6N」又はGoogleとAdobeが協同開発した「源ノ角ゴシック(Source Han Sans JP)」をPCにインストールすることで異体字セレクタによる表現が可能となるケースが多いものと思います

ただ、「建」(5EFA-E0101)のAdobe字形は既に2016-08-15版のIVDに収録されているのが確認できますが、上記2つのフォント自体では未対応の模様。将来的なサポートを期待して「建」だけはIVS対応の文字コードを入力してあります。

なお、対応済みのデバイス(PC)にて閲覧した場合、自動的に上記フォントを選択するようにしてあります。仮にこれらに非対応のOSやフォントあるいはブラウザでの閲覧にあたっては、一般的な字形で表示されるようになっているため、コピペ時以外に支障は生じないと想定しています。