伝信機の布告

解説

本法令は、明治政府が出した日本で最初の電気通信法規です。まだ明治維新から間もない頃ですので候文だったりします。

明治2年、英国人George M. Gilbertの指導のもと2月に横浜での短距離試験を経て、9月から横浜裁判所と東京築地の運上所(税関)の間に32kmの電信線が架設されました。着工日の9月19日、現在の暦で10月23日が電信電話記念日となっています。

第1条では、電信(伝信)サービスの紹介、第2条はサービス申込み案内と伝信局の地理案内、第3、4条で基本料金と飛脚料金が、第5条には受け取り方法と返信時の注意が定められています。

古いには違いないですが、既にこのときから暗号通信の許可と通信の秘密の保持も規定されています(第6条)。第7条はサービス開始日の告知とサービスの受付時刻です。

現代と比べるのもおかしいですが、法律というよりは、電報サービス営業案内に見えてしまいます。より詳しい取扱方法については、明治6年に大日本政府電信取扱規則が公布されています。

なお、告知された明治2年11月は旧暦ですからグレゴリオ暦の1869年に相当し、サービス開始日の12月25日は1870年に相当します

伝信機の布告

明治二年十一月
傳信機之布告
東京傳信局  横濱傳信局
  1.  傳信機ハ幾百里相隔ル場所ニテモ人馬ノ勞ヲ省キ線ノ連ナル場所迄ハ音信ヲ一瞬間ニ通達スル至妙ノ機關ナリ依テ通信相願候モノ左ノ規則ヲ心得ヘシ
  2.  東京ト横濱トノ間ニ掛渡セル傳信機ハ横濱裁判所東角ノ傳信局ニ至リ東京ハ鐵砲洲運上所門右側ノ傳信局ニ至リ用向有之モノハ申通シ度其要用ヲ成ヘク簡略ニカナニテ相認メ右局ヘ持參可申候事
  3.  代銀ノ定メハカナ一文字ニ付價銀壹分ノ割合ヲ以可拂事
  4.  右兩所ヨリ相離ルヽ場所ヘハ早飛脚ヲ以相達ル賃銀ノ定メ左ノ通リ
    遠近ニ不拘 ○横濱關内 急屆
     銀六分
    關外 野毛
    石崎
    吉田新田
    横濱元町
    戸部
    石川口

     銀六分
    神奈川宿
    但半時限リ
    芝生村
    程ヶ谷迄

     同壹里半積リ
     同貳匁五分
    藤澤宿邊
     同五里半積リ
     同三拾匁
    相洲横須賀
    但四時限リ

     同七里半積リ
     同四拾五匁
     右ノ外ハ前書ノ割合ヲ以テ里數ニ應シ賃銀拂フヘシ
    ○東京
    居留地關内

     同五分
    關外 木挽町
    汐留
    新橋
    數寄屋河岸
    銀座町
    京橋
    中橋
    東京府
    久保町
    三十間堀邊

     銀三匁
    大傳馬町
    人形町
    江戸橋
    小網町
    靈岩島
    富澤町
    村松町
    馬喰町
    今川橋
    十軒店
    北新堀
    和田倉
    櫻田
    神田鍛冶町
    日本橋
    本町
    鎌倉河岸
    芝金杉
    西ノ久保邊
    急屆
     同四匁五分
    兩國
    小石川
    赤坂
    麻布
    市兵衞町
    深川
    永代橋
    本所一ツ目
    本所二ツ目
    外神田
    高輪
    芝田町
    藏前邊
    淺草
    麹町七丁目邊迄

     同五匁三分
    市ヶ谷
    内藤新宿
    品川
    千住
    今戸
    柳島
    遠本所
    巣鴨
    白金
    目黒邊
    音羽邊
    根津
    谷中

     同八匁
     右ノ外ハ一里銀七匁貳分ノ割合ヲ以テ拂フヘシ
  5.  一方ヨリ通信有之候節使ヲ以夫々ヘ相達シ候ハヽ其名宛ノ者又は名代ノ者ヨリ其使ヘ刻付ノ請取書差出可申候尤返答差出度節ハ其使ヘ認メ渡候儀不相成別段返書認メ持參可申出事
  6.  諸相場其外秘密ノ儀申遣度節ハ兼諸店共申合ノ隱シ言葉等ヲ以申遣シテヨロシ役所ニテハ申出ノ儘相認メ封ノ上相達スル事ニ候若アラハニ申出候テモ掛リ役人モ其往復ノ事一切他言不致掟ニ付洩ル事ナシ
  7.  來ル十二月廿五日ヨリ相始モノ也
    但朝第八時ヨリ夕第八時マテ開場

参考:現代語訳

以下は、私個人が読み下したものですから、かなりいい加減です。ちょっとした参考程度にとどめておいて下さい。

一 傳信機ハ幾百里相隔ル場所ニテモ人馬ノ勞ヲ省キ線ノ連ナル場所迄ハ音信ヲ一瞬間ニ通達スル至妙ノ機關ナリ依テ通信相願候モノ左ノ規則ヲ心得ヘシ

【読下し】 伝信機でんしんき幾百里いくひゃくり 相隔あいへだたる場所にても人馬じんばの労を省き、線のつらなる場所まで音信いんしん一瞬間いっしゅんかんに通達する至妙しみょうの機関なり。って通信 相願あいねがそうろううもの左の規則を心得こころえるべし。

【現代訳】 電信機は何百里も遠く隔てた場所であっても、人や馬に負担をかけることもなく、電線が連なる場所までは、手紙を一瞬の間に伝達するすぐれて巧妙な機械である。よって、通信を希望する者は、左の規則を心得なくてはならない。

一 東京ト横濱トノ間ニ掛渡セル傳信機ハ横濱裁判所東角ノ傳信局ニ至リ東京ハ鐵砲洲運上所門右側ノ傳信局ニ至リ用向有之モノハ申通シ度其要用ヲ成ヘク簡略ニカナニテ相認メ右局ヘ持參可申候事

【読下し】 東京と横浜との間にわたせる伝信機は、横浜裁判所東角の伝信局に至り、東京は鉄砲洲てっぽうず 運上所うんじょうしょ 門 右側の伝信局に至り。用向ようむものは申し通したく、其の要用ようようるべく簡略にカナにて相認あいしたため、右局へ持参申しそうろうき事。

【現代訳】 東京-横浜間に敷設した電信は、横浜裁判所東角の伝信局から、東京鉄砲洲にある税関の門の右側にある伝信局までに至っている。利用したい者は取り次ぎをするので、その要件をなるべく簡潔にカナ文字にて書き、右の局へ持参し、申し出をすること。

一 代銀ノ定メハカナ一文字ニ付價銀壹分ノ割合ヲ以可拂事

【読下し】 代銀の定めは、カナ一文字に付き、あたい 銀壱分いちぶの割合を以って払うき事

【現代訳】 代金の定めは、カタカナ一文字に付き、銀一分の割合をもって支払うべき事とする。

一 右兩所ヨリ相離ルヽ場所ヘハ早飛脚ヲ以相達ル賃銀ノ定メ左ノ通リ

【読下し】 右の両所より相離あいはなるる場所へは、早飛脚はやびきゃくを以って 相達あいたっする賃銀の定め、左の通り

【現代訳】 東京または横浜の伝信局から離れた場所への速達料金を左の通り定める

一 一方ヨリ通信有之候節使ヲ以夫々ヘ相達シ候ハヽ其名宛ノ者又は名代ノ者ヨリ其使ヘ刻付ノ請取書差出可申候尤返答差出度節ハ其使ヘ認メ渡候儀不相成別段返書認メ持參可申出事

【読下し】 一方より通信有りの候節そうろうせつ、使いをって夫々それぞれヘ 相達あいたっそうらはば、其の名宛なあての者又は名代みょうだいの者より其の使いへとき付きのけ取り書 差出さしだし申すそうろうもっとも、返答 差出したくせつは、其の使いへしたため渡しそうろう 相成あいならず。別段、返書をしたため持参申し出すき事。

【現代訳】 一方より通信が有るとき、配達人が到着したならば、その名宛人または代理人から、その配達人へ時刻を付した受取書を渡さなくてはならない。ただし、返信を差し出したくともその配達人へ渡してはならず、別途、返信を書いた上で持参しなくてはならない。

一 諸相場其外秘密ノ儀申遣度節ハ兼諸店共申合ノ隱シ言葉等ヲ以申遣シテヨロシ役所ニテハ申出ノ儘相認メ封ノ上相達スル事ニ候若アラハニ申出候テモ掛リ役人モ其往復ノ事一切他言不致掟ニ付洩ル事ナシ

【読下し】 諸相場 其のほか 秘密の 申しつかわたくせつは、かねて諸店、共に申し合わせの隠し言葉などをもって申しつかわしてよろし。役所にては申し出のまま あいしたため、封の上、相達あいたっする事にそうろうあらわに申し出そうろうても、かかり役人もその往復の事、一切他言致いっさいたごんいたさざるおきてに付き、る事なし。

【現代訳】 さまざまな相場情報や、その他の機密通信を申込みしたいときは、事前に諸店が取り決めた暗号文などをもって申込みしてもよい。役所においては申込み通りに送信し、密封した上で送付する事としている。もし、あからさまに申込したとしても、担当の役人は、その通信の存在を全て秘密にする規定であり、漏洩する事はない。

一 來ル十二月廿五日ヨリ相始モノ也
 但朝第八時ヨリ夕第八時マテ開場

【読下し】 来る十二月二十五日より相始めるものなり
 但し、朝第八時より夕第八時まで開場

【現代訳】 来たる12月25日より始めるものとする。
ただし、受付は朝8時から夜8時までとする。

原典などの情報

入力条文の原本は、国立国会図書館 近代デジタルライブラリー、明治2年法令全書(pp.281-282)を使用しました。なお、本ページのテキストにおいては、旧字体、異体字については完全に表現できていないため、字体のみですが若干の相違があります。

伝信機の布告の原本画像[JPEG](出典:てれこむノ夜明ケ 若井登・高雄雄造編著 1994)