ゲルマラジオ/鉱石ラジオの感度は皆さん興味のあるところだと思います。感度についての理論的な部分はこちらのページのように、ある程度の目安が付いたところですが、いかんせん、実測結果に基づかないため面白さはありません。
数式だらけという部分を避け、実際の感度測定を試みました。
今回は予備実験の位置付けですので、それほど気合を入れた解析はしておりませんが、簡易報告として結果をご紹介します。
なお、2018年現在の最高達成感度は -40dBm 程度です。詳しくは「ゲルマラジオとトランス」をご覧ください(オーディオ用イヤホン+トランスの組合せ)
写真1.測定風景
ゲルマラジオ自体は、部品も回路も特段工夫をしていない、「普通」のものです。イヤホンも市販のクリスタルイヤホン(圧電セラミック)を使用しています。
写真1のような普通級ゲルマラジオの感度を測定したいというのが、今回の実験の趣旨です。(※トランスとかは付いていますが、実際には使っていません。)
測定した回路は図1のとおりです。測定用として、元々存在しないリンクコイルを巻いた以外は、何の変哲もありません。
図1.測定回路
コイルには入手性のよいマックスのPA-63Rを使いました。元来、ゲルマラジオ用途のようです。そのまま基板に半田付けで固定できるのがとっても便利!実測Qも200を超える“使えるヤツ”です。
コイルは単巻きですが、タップがあります。図1の回路図では、それぞれをB:黒色、W:白色、G:緑色、Y:黄色と表現しています。
図2.PA-63R取扱説明書
PA-63Rには、アンテナ結合用のコイルが無いので、実験用に「てきと~」なリンクコイルを付加して測定してました。すっごく雑ですが、気にしたら負け。
写真2.リンクコイルらしきもの
バリコンは、365pFのエアバリコンを使っています。ラジオデパートのシオヤ無線で購入した記憶あり。ポリバリコンでも良いのですが、270pFなのでやや周波数可変範囲が狭く、ケース加工との相性もよいエアバリコンを使っています。
私個人としては、入手が難しくなりつつあるエアバリコンは、なるべく使用を避けたいと考えている部品だったりします。
ダイオードは、点接触型ゲルマニウムダイオードの代表選手、1N60を使用。依然として入手性は悪くないが、今後を心配する部品の一つ。
写真3.1N60
検波用キャパシタは、ごく普通のセラミックコンデンサの100pF。特に根拠レスに付いていることの多い100pFを入れてあります。
セラミックイヤホンを使っているので、理屈の上ではそんなに要らない感じですが、そこを「普通」にするため、敢えて入れてみました。
検波用抵抗は100kΩ。回路によってはこれすらも省略されますが、だいたい100k~1MΩぐらいまでの抵抗がよく入っていますから、これを真似しました。
この値は理論的な根拠に基づいたものではなく、一般によく使われているからなんです。
イヤホンは、ごく普通のセラミックイヤホンです。クリスタルイヤホンというのは商品名みたいなもので、本来は圧電素子にロッシェル塩結晶を用いたものを指す用語でした。
現代の「クリスタルイヤホン」は圧電セラミック。特性がまるで違うということもあったせいなのか、ここ2、3年の間に「セラミックイヤホン」の商品名も普及してしまいました。
写真4.ゲルマラジオ外観
実験用セットのため、バイアス用回路、低周波トランスなどの余計な部品も付いてます。
測定した条件は、キャリア周波数1MHz、変調周波数1kHz、変調度30%です。
また、使用測定器と測定方法を以下に示します。
信号発生器 | PANASONIC VP-8174A ,0.1-110MHz, -19 to +99dBuV(EMF) |
---|---|
DC電圧 | AKIZUKI METEX P-10 |
AC電圧 | KENWOOD VT-181E |
RF電圧 | KENWOOD VT-181E + 10:1 probe |
この測定器構成では値の扱いに注意が必要でした。使用した電子電圧計は平均値測定器であり、表示は実効値(RMS)に換算しています。そのため、測定したい振幅を算出するには、測定値に$\sqrt{2}$をかける必要が出てきます。
また、平均値測定器ですので波形誤差があり、正弦波以外の波形では誤差が出てしまいます。今回はオシロスコープで観測しない簡易測定なので、耳に頼って歪成分の大小を確認しました。
実は、購入したSSG(標準信号発生器)の出力がdBμV(EMF)表記であり、少々戸惑いましたので、ここにメモしておきます。
EMFは起電力(Electro Motive Force)の略で、0dBμV(EMF)というのは、無負荷のときに1μVの実効値電圧(RMS)になるということを表しています。
例えば、+80dBuV(EMF)の場合、無負荷時の測定器出力端子が10mV(rms)の実効値=14.1mVの振幅(Amplitude)であることを意味します。
測定器の出力インピーダンスが50Ωなので、同じ50Ωで終端したときは、振幅はちょうど半分。つまり5mV(rms)の実効値=7.07mVの振幅となって、dBm換算すると0.5μW=-33dBmに相当します。
50Ω系での換算は、dBm = dBuV(EMF) - 113.01 とすればOK。
例:+99dBuV(EMF) at 50Ω 終端の場合、出力電力は+99-113=-14dBm
まずは、同調回路にSGを直結した場合からの測定です。
RFレベル | +99dBuV(EMF) |
---|---|
RF電圧(Vrf) | 79mV(rms) |
DC電圧(Vdc) | 53.4mV |
AC電圧(Vac) | 5.2mV(rms) |
復調音 | 歪成分が多い |
選択度 | 非常に悪い(バリコンを回しても一切変化なし) |
これは予想どおりでした。50ΩのインピーダンスのSSGを直結しているので、同調回路が無効化され昇圧も全く無い状態。ゆえに感度・選択度ともに最悪の状態となります。
いわば、50Ω系のパワーが不整合のため、うまく伝達されていないということです。
このVacは既に受信限界ギリギリなので、もう1dBを足した+100dBuVぐらいが適正感度と仮定すると、感度は感度は-13dBmと算出されます。(50Ω系,キャリア電力基準)
PA-63Rの黄色(Y)端子にSSGを接続し、少しでもインピーダンスを整合させようとしたものです。
RFレベル | +99dBuV(EMF) |
---|---|
RF電圧(Vrf) | 61mV(rms) |
DC電圧(Vdc) | 1.218V |
AC電圧(Vac) | 93mV(rms) |
復調音 | やや歪成分が多い |
選択度 | シャープ |
コイルタップからの入力に変えるだけで、感度が20倍(Vdc比)ほどアップしました! 選択度も十分な感じです。
やはりゲルマラジオには整合が最も大切な要素であることを実感しました。
この状態から入力レベルを下げて、Vacが7mV付近となる実用感度と思われる状態になったとき、
RFレベル | +81dBuV(EMF) |
---|---|
RF電圧(Vrf) | 8mV(rms) |
DC電圧(Vdc) | 98.4mV |
AC電圧(Vac) | 7.7mV(rms) |
復調音 | 歪成分が多い |
よって、感度は-32dBmと算出されました。(50Ω系,キャリア電力基準)
しかしながら、どうも下記のリンクコイル接続に比べて歪が多いのです。 おそらく、歪成分が多く、見かけ上Vacが上昇している模様。
適当に7回ほど巻いたコイルを、コアの上にぐるぐると巻いてリンクコイルにしたものです。
リンクコイルの位置を変えながら(つまり結合度を変化させ)入力が、無負荷時の半分となったときに整合が取れたと仮定して、測定をしました。
完全な保証はありませんが、この時、ゲルマラジオの入力インピーダンスは50Ωに近いと考えられます。
RFレベル | +99dBuV(EMF) |
---|---|
RF電圧(Vrf) | 40mV(rms) |
DC電圧(Vdc) | 1.446V |
AC電圧(Vac) | 62mV(rms) |
復調音 | 純音 |
選択度 | シャープ |
VdcはANT2接続時に比べて増加したのですが、肝心のVac出力が落ちました。しかしながら、復調音には歪が無く、純音なのです。
このことから、本来のANT2接続時のVac出力(=1kHz成分)も、おそらく60mV(rms)弱が正しいのではないかと推測できます。(歪成分の影響で値に誤差が発生している可能性大)。感度を確認するため、さらに入力を下げていったとき、
RFレベル | +80dBuV(EMF) |
---|---|
RF電圧(Vrf) | - |
DC電圧(Vdc) | 103mV |
AC電圧(Vac) | 7.3mV(rms) |
復調音 | やや歪み成分が多い |
よって、感度は-33dBmと算出されました。(50Ω系,キャリア電力基準)
備考:減衰器を使わず、測定器を直結しているので、50Ω出力自体が保証されていません。まぁ、近いことは確かなはずですが・・・
よくある一般的なゲルマラジオでも、アンテナ系とのマッチングがうまくいけば、感度が大きく上昇することが分かります。
また、想像よりも感度が高いです。単純な回路でさえ-30dBm以下の感度を確保できる事実。無増幅なのに、わずか1マイクロワットの受信電力で動作するラジオは驚異に感じます。
しかも、AM変調ですから実際の音声成分はさらに1/20(m=30%時)のパワーです。1マイクロワットの高周波信号中に含まれる音声パワーは何と45ナノワット。上のANT3実験では-46dBmの微弱パワーを復調できていた事になります。凄い…
それから、感度測定をする際は、歪の多い交流出力電圧(復調信号電圧)を測定するよりも、直流出力の方が感度を適切に表せているように思われます。
これはうれしい事実で、デジタルテスタ一つでも感度比較が十分にできるという意味になり、誰もが簡単に性能比較や評価ができる道があるということです。
(1)感度限界の測定時、出力電圧は歪を伴い(いわゆる2乗歪)、交流電圧計に誤差が出ているようなので、フィルタや何がしかの対策が必要そうである。どうしたらよいか??
(2)ゲルマラジオの入力インピーダンスが不確定要素になっているため、何らかの測定冶具が要りそう。(理論値による予測では不安が大きい。)周波数が低いため、簡単な回路としてインピーダンスブリッジが良さげ。
ただし、入力インピーダンスは信号レベルで変化するものなので、そのへんを念頭に入れなくてはいけない。
(3)正確な電力測定のためには、測定器出力をきっちり50Ωのインピーダンスに合わせるのに固定減衰器(ATT)があったほうがベスト。また、その際はSG出力が小さめのため、広帯域AMPと組み合わせる必要性がある。