5 電信方程式の一般解(ダランベールの解)

5.1 はじめに

ここからは式(4.4)の電信方程式を解いていきます。電信方程式は簡単には解かせてくれない方程式なので、変数分離法を使って単一正弦波についての解を求めたりするのが一般的です。変数分離と難しく聞こえるものの、実は一番やさしい解法で、いわゆる電気回路演算で用いられる$ j \omega$ などの複素演算(フェーザ法)に対応させることと全く同じです。

他にはラプラス変換や直接シミュレーションする方法などもありますが、ここでは、求積解である「ダランベールの解」と呼ばれる一般解を求めていきます。

ここの部分は計算が複雑な割には、実用的な式でなく、物理的な基礎の話ですので、不要な方は読み飛ばしても良いでしょう。

ちなみに、偏微分方程式は解けるほうが珍しいようで、解き方については難解な教科書が山ほど出ているほどです。

5.1 無損失の電信方程式

\[ \pdiffB{2}{v}{x} = LC \pdiffB{2}{v}{t} + (LG+CR) \pdiffA{v}{t} + RGv \tag{4.4} \\ \]

前ページで求めた電信方程式(4.4)は偏微分方程式であるため、常微分方程式と異なり解くのが非常に厄介です。そのままの形では解くことができません。

しかしながら $ R=G=0 $ としたときに限り、特別に求積法と呼ばれる積分解法を使うことができます。この時の方程式は、 \[ \pdiffB{2}{v}{x} = LC \pdiffB{2}{v}{t} \tag{5.1} \] となります。

この式(5.1)は、一般に無損失線路の方程式と呼ばれています。エネルギ損失の原因となる抵抗RやコンダクタンスGが存在しないからです。オリジナルの式(4.4)よりも随分とシンプルになりました。電圧と電流それぞれの式は全く同じ形の方程式なので、どちらか片方を解けば、直ちに他の解も分かります。ここでは求積法で解くことにします。

5.2 特別な解法(ダランベールの解法)

5.2.1 解くための準備事項

ここからは微分方程式を解くにあたって、唐突な手法がたくさん飛び出します。怪しげに思わないで、まぁそういうものだと思ってください。まず裏技その1は方程式の係数 $LC$ を以下の形に変換することから始まります。 \[ u = \frac{1}{\sqrt{LC}} \tag{5.2} \]

すると式(5.1)の無損失電圧式は \[ \pdiffB{2}{v}{x} = \frac{1}{u^2} \pdiffB{2}{v}{t} \tag{5.3} \] となります。

どうして、わざわざこんなことをするのか疑問になると思いますが、こうすると上手に解けてしまうという理由だけです。(ダランベールさんがどうやって解法を発見したのかは分かりません。)ちょっとだけタネ明かしをすると、$ u $ は波の波形の速度を表しているので、このような変換をしています。

次の裏技その2も突然に出てきます。今度は変数の変換です。ここでは二つの変数、距離 $x$ と時間 $t$ を、新しく考えた変数 $ \xi $ (クシー)と $\eta$ (イ-タ)に置換してしまうのです。 \begin{eqnarray} \xi &=& x-ut\\ \eta &=& x+ut \tag{5.4} \end{eqnarray}

ここで変数置換後の電圧関数 $v(x,t)$ は \[ v(x,t) \Rightarrow v(\xi,\eta) = v \left( \frac{\xi + \eta}{2} , \frac{-\xi + \eta}{2u} \right) \tag{5.5} \] と表現することができます。(とはいえ、この後は全くでてできません。)

5.2.2 変数置換後の左辺

式(5.3)の左辺…すなわち距離 $x$ で偏微分している項…に $\xi$ と $ \eta $に変換された式(5.5)の $ v $ を代入するため、$x$ で偏微分すると、(補足 5.A1 \begin{eqnarray} \pdiffA{}{x} v(\xi,\eta) &=& \pdiffA{v}{\xi} \pdiffA{\xi}{x} + \pdiffA{v}{\eta} \pdiffA{\eta}{x} \\ &=& \pdiffA{v}{\xi} + \pdiffA{v}{\eta} \tag{5.6} \end{eqnarray} となります。ここでは、 \begin{eqnarray} \pdiffA{\xi}{x} &=& \pdiffA{}{x} (x-ut) = 1\\ \pdiffA{\eta}{x} &=& \pdiffA{}{x} (x+ut) = 1 \end{eqnarray} となっていることがポイントです。

式(5.6)をもう一度 $x$ で偏微分すると、 \begin{eqnarray} \pdiffB{2}{}{x} v(\xi,\eta) &=& \pdiffA{}{\xi} \left( \pdiffA{v}{\xi}+\pdiffA{v}{\eta} \right) \pdiffA{\xi}{x} + \pdiffA{}{\eta} \left( \pdiffA{v}{\xi} + \pdiffA{v}{\eta} \right) \pdiffA{\eta}{x} \\ &=& \pdiffA{}{\xi} \left( \pdiffA{v}{\xi}+\pdiffA{v}{\eta} \right) + \pdiffA{}{\eta} \left( \pdiffA{v}{\xi} + \pdiffA{v}{\eta} \right) \\ &=& \left( \pdiffB{2}{v}{\xi} + \pdiffC{v}{\eta}{\xi} \right) +\left( \pdiffC{v}{\eta}{\xi} + \pdiffB{2}{v}{\eta} \right) \\ &=& \pdiffB{2}{v}{\xi} + 2 \pdiffC{v}{\eta}{\xi} + \pdiffB{2}{v}{\eta} \end{eqnarray} さらに、積分順序の変更(補足5.A2)をして \[ 2 \pdiffC{v}{\eta}{\xi} \to 2 \pdiffC{v}{\xi}{\eta} \] とし(後で必要になる)、最終的に式(5.3)「左辺」の部分は \[ \pdiffB{2}{v}{x} = \pdiffB{2}{v}{\xi} + 2 \pdiffC{v}{\xi}{\eta} + \pdiffB{2}{v}{\eta} \tag{5.7} \] とまとめることができます。 $x$ で偏微分したのに、$ x $ が式中に現れず完全に消えていることが面白いところです。

5.2.3 変数置換後の右辺

次に、式(5.3)の右辺項を変数置換し、時間 $t$ で偏微分すると、 \begin{eqnarray} \pdiffA{}{t} v(\xi,\eta) &=& \pdiffA{v}{\xi} \pdiffA{\xi}{t} + \pdiffA{v}{\eta} \pdiffA{\eta}{t} \\ &=& -u \pdiffA{v}{\xi} + u \pdiffA{v}{\eta} \tag{5.8} \end{eqnarray} ここでは、 \begin{eqnarray} \pdiffA{\xi}{t} &= \pdiffA{}{x} (x-ut) =& -u \\ \pdiffA{\eta}{t} &= \pdiffA{}{x} (x+ut) =& u \end{eqnarray} と、定数項になっていることがポイントです。

さらに(5.8)をもういちど時間 $t$ で微分して頑張れば、式(5.3)の右辺項が求められます。 \begin{eqnarray} \pdiffB{2}{}{t} v(\xi,\eta) &=& \pdiffA{ }{\xi} \left( -u \pdiffA{v}{\xi} + u \pdiffA{v}{\eta} \right) \pdiffA{\xi}{t} \\ & & \hspace{2em} + \pdiffA{}{\eta} \left( -u \pdiffA{v}{\xi} + u \pdiffA{v}{\eta} \right) \pdiffA{\eta}{t} \\ &=& u^2 \pdiffA{}{\xi} \left( \pdiffA{v}{\xi} - \pdiffA{v}{\eta} \right) \\ & & \hspace{2em} + u^2 \pdiffA{}{\eta} \left( -\pdiffA{v}{\xi} + \pdiffA{v}{\eta} \right) \\ &=& u^2 \left( \pdiffB{2}{v}{\xi} - \pdiffC{v}{\eta}{\xi} \right) \\ & & \hspace{2em} + u^2 \left( -\pdiffC{v}{\xi}{\eta} + \pdiffB{2}{v}{\eta} \right) \\ &=& u^2 \left( \pdiffB{2}{v}{\xi} - 2 \pdiffC{v}{\xi}{\eta} + \pdiffB{2}{v}{\eta} \right) \end{eqnarray} よって、 \[ \pdiffB{2}{}{t} v(\xi,\eta) = u^2 \left( \pdiffB{2}{v}{\xi} - 2 \pdiffC{v}{\xi}{\eta} + \pdiffB{2}{v}{\eta} \right) \tag{5.9} \] とまとめることができ、今回も時間 $t$ で偏微分したにもかかわらず、やはり式から消去されています。

5.2.4 変数置換後の両辺の整理

これで、式(5.3) \[ \pdiffB{2}{v}{x} = \frac{1}{u^2} \pdiffB{2}{v}{t} \tag{5.3} \] の変数置換後の両辺が求められたので、式(5.7)と(5.9)を(5.3)に代入して、 \begin{eqnarray} \pdiffB{2}{v}{\xi} + 2 \pdiffC{v}{\xi}{\eta} + \pdiffB{2}{v}{\eta} &=& \frac{1}{u^2} u^2 \left( \pdiffB{2}{v}{\xi} - 2 \pdiffC{v}{\xi}{\eta} + \pdiffB{2}{v}{\eta} \right) \\ &=& \pdiffB{2}{v}{\xi} - 2 \pdiffC{v}{\xi}{\eta} + \pdiffB{2}{v}{\eta} \end{eqnarray}

さらに両辺を整理すれば、 \[ \pdiffC{v}{\xi}{\eta} =0 \tag{5.10} \] という、重要な関係式が得られます。

5.2.5 積分による無損失線路の一般解

式(5.10)を $\eta$ で積分します \[ \int \pdiffC{v}{\xi}{\eta} d \eta =\pdiffA{v}{\xi} = K(\xi) \tag{5.11} \] ここで、 $ K $ は積分定数です。ここでは、$\xi$ のみの関数を $\eta$ で偏微分したときに0となること、すなわち \[ \pdiffA{K(\xi)}{\eta}=0 \] であることを利用して、積分定数とみなすわけです。

さらに式(5.11)を$ \xi $ で積分すると電圧$ v(\xi,\eta) $が出てきます \[ v(\xi,\eta) = \int K(\xi) \ d \xi +g(\eta) \tag{5.12} \] ここで、 $g(\eta)$ は積分定数であり、 \[ \pdiffA{g(\eta)}{\xi}=0 \] を利用して、積分定数とみなしています。

式(5.12)の積分項は、$ \xi $ のみの関数なので、まとめて $ f(\xi) $ と表すことができます。すると式(5.12)は、 \[ v(\xi,\eta) = f(\xi) + g(\eta) \tag{5.13} \] とまとめることできて、最終的に \[ v(x,t) = f(x-ut) + g(x+ut) \tag{5.14} \] が、求めるべき方程式となります。

この解は、ダランベールの解 (d'Alembert's solution) と呼ばれる方程式です。電気分野以外では、楽器の弦などの一次元方向の振動現象を表すときの方程式です。つまり、分布定数回路は弦楽器の物理振動を電気振動に置き換えたような振る舞いをする回路として考えることができるのです。

次ページへ続く

5.A 補足

補足 5.A1 合成関数の偏微分法

2変数関数 $z=z(\xi,\eta)$ があり、 $ \xi = \xi(x,t), \ \eta=\eta(x,t) $ と、それぞれの変数が $x ,t$ の合成関数になっているとします。関数 $z$ が連続で偏導関数をもつとき、 $ z $ は $x$ または $t$ で偏微分することができて、 \begin{eqnarray} \pdiffA{z}{x} &=& \pdiffA{z}{\xi} \pdiffA{\xi}{x} + \pdiffA{z}{\eta} \pdiffA{\eta}{x} \\ \pdiffA{z}{t} &=& \pdiffA{z}{t} \pdiffA{\xi}{t} + \pdiffA{z}{\eta} \pdiffA{\eta}{t} \end{eqnarray} が成立します。

この公式はチェインルール(chain rule)と呼ばれていて、合成関数の常微分とは異なりますので注意が必要です。

補足 5.A2 偏微分順序の変更

前ページでも紹介しましたが、2変数関数 $ f=f(x,y) $ がC2級関数(=2階の偏導関数がすべて存在して連続の時)であれば、 $ x \to y$ の順番で偏微分した関数 $ f_{xy} $ と、$ y \to x $ の順番で偏微分した関数 $ f_{yx} $ は一致します。式で書けば、 \[ \frac{\partial^2 f}{\partial y \partial x} = \frac{\partial^2 f}{\partial x \partial y} \]

電気回路の世界では、不連続な関数というものをあまり扱わないので、計算においては偏微分の順序変更を頻繁に行っています。(でもヘビサイド関数とかδ関数とかは普通に使われるので、意外にそうでもなかったり…。)