ここでは、法規の読み方などの勉強方法を簡単に説明致します。なお、私自身は専門に法学を学んだわけではないので、若干の思い込みや勘違いがあるかもしれません。一般に法律は普段は使わない用語や、独特の法則で書かれていることが多く、法律に出会うたびにうんざりです。
法学部の人は、一体どういう頭の持ち主なんだろうと思われる方も結構多いかも知れません。ちなみに、懐かしの「超勉強法」という本には、「一読難解。二読誤解、三読不可解」なる言葉が紹介されていました。妙に納得してしまいます。
しかし、民法など恐ろしく古い歴史を持ち、大量の判例が重みをもつような法律はともかく、電気通信事業法などは最近成立した法律なので、基本的な用語さえ学んでいれば、なんとか理解ができるものです。
そこで、今までに全く法律を学んだことがない方のためにも、一通り用語の勉強をしてみようということで、このコンテンツをつくりました。今まで勉強したけどしっくりこなかったという方にも、おすすめします。
法の種類には、法律、政令、省令など、いろいろあります。総務省のサイトでは、それぞれの種類に応じた新規制定法が掲載されていますので、最初に雰囲気をつかんでおくとよいでしょう。
一般にいう法律と、専門用語にいう法律は意味が違ってきます。一般には、法全体を指すことが多いです。しかし狭い意味では、国会で成立したもののみが法律と呼ばれます。
法律は憲法に従い作成されるものですが、憲法そのものは国家のOSみたいなもの。これを除けば「法律」が最も基本的な法になります。
現在の憲法下で公布された法律は、全て「国会で制定」されるもので、「法」の基本になります。
この「法律」を基に、政令、省令など法律の詳細を補う命令が定められていくのです。
主要な通信法規でいうと
など、最後に「法」が付くものは「法律」であって、各法令の中で最も位が高いのです。
法律に基づいて、もう少し細かい命令が必要になることが多いですが、その中でいちばんエライのが政令。「内閣が制定」するものです。分類は幾つかありますが、通信法規に限れば法律の委任命令だけです。
通信法規の例では
など、最後に「令」が付くものは政令です。
法律に基づいて、現実レベルとの整合性をはかるための管轄の「省が制定」する命令です。府令(内閣府令)は通信法規に関係なさそうですが、省令はたくさん出ています。
通信法規の場合は、大半が総務省令(旧郵政省令)で、その他は国土交通省令など、少な目です。法律や政令から委任された詳細な命令と捉えるとよいでしょう。
通信法規の例では
など、多くの委任命令が出されています。
告示にもいろいろ種類があるのですが、通信法規においては、「告示」するとか、「大臣が定める」といった表現で、省令のさらなる詳細を定めたり、許認可にかかわるものの公表、技術条件の詳細規定が多いです。
電気通信事業法下の告示は多数ありますが、受験勉強にあたっては、
が代表的なものでしょう。
条約は、「法律」よりも強い国家間の取り決め事項です。条約が締結されると、それに基づいて国内の法律が制改定されたりします。
電気通信法は、遠く明治の頃から国際条約が取り極められてきました。通信という性質がある以上、国際間の問題になりがちだからです。
が、その代表です。
偉さの基準 憲法>条約>法律>政令>府令・省令>条例
特別法とは適用が特定の事物に限られる法。また、一般法とは、適用の範囲が広くより一般的な法。
一例を挙げれば、 商法は、「商売」を定める法律ですが、電気通信事業法は「電気通信という商売」を規制する法律です。
つまり、その特定の事物に適用される法律は、その他一般のことを定める法律よりも効力が強いということです。
原則、新しい法律が優先されます。ですが、もし仮に旧法が新法の特別法になっていれば、旧法の特別法を優先させます。
法令の並び方は、条、項、号、イロハの順で並びます。これは読むときに重要な法則です。だいたいこんな感じ。
法律の中で、前条とか前項とか前号の表現がありますが、条項号を読み間違えないよう注意。
条については増やす余裕がなくなって、「第三十五条の六の二」という単位の表現も現れます。これは「第三十五条第六項第二号」のことではなく、あくまで「条」レベルの表記です。
○電気通信事業法 第三十三条
総務大臣は…(略)(←「1」は省略)
2 前項の規定により…(略)
3 前項の認可を…(略)
4 総務大臣は…(略)
一 次に掲げる事項が…(略)
イ 他の電気通信事業者の…(略)
ロ 総務省令で定める…(略)
ハ 第一種指定…(略)
ニ 電気通信役務に…(略)
ホ イからニまでに掲げる…(略)
二 接続料が能率的な…(略)
三 接続条件が…(略)
四 特定の電気通信事業者…(略)
法律用語のキソ(あどみん)なども参考にするとよいでしょう。
「並びに」>「及び」 で文章の指し示す事項の範囲が変わる。
どちらも AND という意味ですが、「並びに」が大きい範囲で、「及び」が小さい範囲です。
実例1 電気通信事業法 第九条(抜粋)
(略) 電気通信回線設備(送信の場所と受信の場所との間を接続する伝送路設備及びこれと一体として設置される交換設備並びにこれらの附属設備をいう。以下同じ。)
電気通信回線設備は
{伝送路設備 AND 交換設備
}
AND
{
附属設備
}
の、おおまかに2種類の設備に分類され、そのうち一つは伝送路設備と交換設備の2つに分かれるという解釈になります。
もし、「及び」をたくさん使うときは、「A、B、C及びD」という形で書かれます。
実例2 (電波法) 第二十七条の2
(略) その特定無線局が目的、通信の相手方、電波の型式及び周波数並びに無線設備の規格 (以下、略)
(
目的 AND 通信の相手方 AND 電波の型式 AND 周波数
)
AND
(
無線設備の規格
)
という意味に捉えます。
「又は」>「若しくは」 で文章の指し示す事項の範囲が変わる。
「又は」は大きいOR、「若しくは」は小さいOR。
総務大臣は
「(設備を修理する) OR (設備を改造する)ことを命じることができる」 OR 「使用を制限することができる」という意味に捉えます。
実例4 電気通信事業法 第十条
氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては、その代表者の氏名
〔 (氏名 OR 名称) AND (住所) 〕 AND 〔 代表者氏名 〕
氏名と名称のグループは OR結合
「氏名/名称」と「住所」グループでひとかたまりですが、法人はさらに代表者が必要ということですね。
法令をそのまま当てはめる
Aということについて規定される条文を、Bに変形して当てはめること
○電気通信事業法 第七十二条 抜粋
2 第四十六条第三項から第五項まで及び第四十七条の規定は、工事担任者資格者証について準用する。この場合において、第四十六条第三項第一号中「電気通信主任技術者試験」とあるのは「工事担任者試験」と、同項第三号中「専門的知識及び能力」とあるのは「知識及び技能」と読み替えるものとする。
このように、電気通信主任技術者試験の条文のほとんどを再利用して、工事担任者の規定にしています。
「直ちに」>「速やかに」 >「遅滞なく」の3段階の急ぎの表現があります。
○ 電波法 第六十六条 抜粋
遭難通信を受信したときは、他の一切の無線通信に優先して、直ちにこれに応答し
超緊急ならもちろん、「直ちに」しなければいけません。衛星の電波発射停止とかも同じ表現。
○ 電気通信事業法 第二十九条 抜粋
事故により電気通信役務の提供に支障が生じている場合に電気通信事業者がその支障を除去するために必要な修理その他の措置を速やかに行わないとき。
直ちには無理でも、速やかに修理はしてください。
○ 電波法 第三十九条 抜粋
無線局の免許等がその効力を失つたときは、免許人等であつた者は、遅滞なく空中線を撤去しなければならない。
免許切れたからといって、速攻で撤去はできないのでこんな感じになってます。
技術法規はこれを間違えると致命的
「100を超える」→100自身を含まない( x > 100)
「100未満」→100自身を含まない ( x < 100)
○ 事業用電気通信設備規則 別表3 抜粋
供給電流が20mA未満の場合の信号送出電力は、-15.4dBm以上-3.5dBm以下であること。供給電流が120mAを超える場合の信号送出電力は、-20.3dBm以上-5.8dBm以下であること。
「100以上」→ 100自身を含む( x ≥ 100)
「100以下」→ 100自身を含む( x ≤ 100)
○ 事業用電気通信設備規則 第二十七条 抜粋
端末設備等を切り離した時の線間電圧が四十二ボルト以上かつ五十三ボルト以下であること。
次の条文を分解して、意味を考えてみて下さい。
例題演習:旧電気通信事業法第三十六条第4項
4 郵政大臣は、第一種電気通信事業者の業務の方法に関し通信の秘密の確保に支障があると認めるとき、事故により電気通信役務の提供に支障が生じている場合に第一種電気通信事業者がその支障を除去するために必要な修理その他の措置を速やかに行わないとき、その他第一種電気通信事業者の業務の方法が適切でないため利用者の利益を阻害していると認めるとき、又は第一種電気通信事業者が国際電気通信事業に関する条約その他の国際約束により課された義務を誠実に履行していないため若しくは第一種電気通信事業者が電気通信設備の接続若しくは共用若しくは第三十九条の三第二項の規定による電気通信役務の提供について特定の電気通信事業者に対し不当な差別的取扱いを行いその他これらの業務に関し不当な運営を行つていることにより他の電気通信事業者の業務の適正な実施に支障が生じているため、公共の利益が著しく阻害されるおそれがあると認めるときは、当該第一種電気通信事業者に対し、利用者の利益又は公共の利益を確保するために必要な限度において、業務の方法の改善その他の措置をとるべきことを命ずることができる。
ひたすら分解していきます。
(S)郵政大臣は、(主語)
(1) 第一種電気通信事業者の業務の方法に関し通信の秘密の確保に支障があると認めるとき、
(2) 事故により電気通信役務の提供に支障が生じている場合に第一種電気通信事業者がその支障を除去するために必要な修理 (その他の措置)修理を包括 を速やかに行わないとき、
(3) その他(1),(2)と並列対等 第一種電気通信事業者の業務の方法が適切でない ため 利用者の利益を阻害していると認めるとき、
又はLv1
(4-1) 第一種電気通信事業者が国際電気通信事業に関する条約 (その他の 国際約束)条約を包括 により課された義務を誠実に履行していないため
若しくはLv2
(4-2) 第一種電気通信事業者が
(4-2-1-1) 電気通信設備の(接続 若しくはLv4 共用)
若しくはLv3
(4-2-1-2) 第三十九条の三第二項の規定による電気通信役務の提供
(4-2-1) について特定の電気通信事業者に対し不当な差別的取扱いを行い
(4-2-2) その他4-2-1並列対等 これらの業務に関し不当な運営を行つていることにより
(4-2)他の電気通信事業者の業務の適正な実施に支障が生じている ため、
(4) 公共の利益が著しく阻害されるおそれがあると認める とき
(V) は、当該第一種電気通信事業者に対し、(利用者の利益 又は 公共の利益) を確保するために必要な限度において、業務の方法の改善 (その他の 措置)業務の方法の改善を包括 をとるべきことを命ずることができる。(述語)
長いんですよ、この条文が異常に。さらに条件追加された今の法律(第29条)では、わかりやすく数字で列挙される形式に改善されてたりします。
まず簡単な分析で最初にわかることは、主語が「郵政大臣は」で、述語が「命ずることができる」になっており、命ずることができる場合を、長ったらしく書いていますね。
ところがその条件は大きく分けてたかだか(1)~(4)の4つだけです。 これをレベル1条件としておきましょう。
「とき」とか 「ため」にも注意するとわかるのですが、郵政大臣は すべて 「~のとき」 レベル1条件を満たしたときに発動可能なように書いてあります
(4-1)と(4-2)は「ため」という表現で、発動条件の細かい部分を表しているだけで、(4)の「公共の利益が著しく阻害されるおそれがあると認めるとき」がレベル1条件です。
レベル1条件だけ見れば、「郵政大臣は(1),(2),(3)又は(4)」の条件で命令(S)が発動可能と解釈します。
この条文が難しい要因は、(4)の内部の条件規定のせいですね。(4-1) 「若しくは」 (4-2)の要因によって「公共の利益が著しく阻害されるおそれがあると認めるとき」と云うレベル1(第4条件)が完成するのですが、第2レベルの「OR」であるため、「若しくは」が使われていることが分かります。
猛烈に面倒くさいのが、第3レベル以下の条件ですが、説明は省略します。
「並びに」と「及び」も同じ関係で、A並びにB及びCという形になります。
一方、(3)や(4-2-2)で出てくる部分、
のくだりでは「その他」になっています。ここの読み方は、この前半部分と「その他」の後に書かれているものが「対等な並列関係」になるという違いがあります。
普段はあまり意識しなくてもよいでしょうが、法令用語だと「その他」と「その他の」で使い分けがされています。
有線で通信を行う基本ルールを定めた法律。ルーツは明治前期で最も古い法。(電信線電話線建設条例、電信法)
電磁波全般を規制する法律。通信用途に限らない。旧無線電信法の長男坊。
サービス運営法とは、一言で片付けると「商売の法律」です。
電気通信サービスを提供する商売を規制する法律。旧電信法の子孫、先代は公衆電気通信法。
通信の中でも放送という商売を規制する法律。電波法の兄弟分で先代は無線電信法でしたが、平成23年の改正で、有線を含めた独立色の強い法にイメチェン。
以下の法律は、平成23年の放送法大改正に伴い、廃止されました。
放送法は電波法の仲間なので、有線は管轄外だったんです。
放送とは名が付くものの、電話通話サービスも可能だった自営回線の法律
有線放送向けの法律
通信関係の国際条約は、とにかく分厚いです。国連の専門機関、国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)で国家間の電気通信の取り極めをしています。この条約がないと、国際通話ができないかも。
ITU-T(国際電気通信連合)の最も基本の部分を定めたもの。電通主任試験に出るのはここの部分から。
1992年から憲章と条約に分かれました。
通称NTT法。KDD法はだいぶ前に廃止され、電気通信の特殊会社(JRなどの法律で指定される株式会社など)はNTTのみ(持ち株・東西の3社)になりました。
その名の通り、ハッキングを禁止した法律。この法律ができるまでは、不正アクセスのみで罪に問うのが非常に難しかった。
電子署名に法的な根拠を与えた法律。
電気通信主任技術者試験では、以下の詳細な省令が出題されます。
◎はよく出題されるもの、○は出題されるもの。
有線電気通信法◎ | 電波法◎ |
---|---|
有線電気通信法施行令 有線電気通信施行規則○ 有線電気通信設備令◎ 有線電気通信設備令施行規則◎ |
電波法施行令 電波法施行規則 無線設備規則 無線局の開設の根本的基準 無線従事者規則 無線局運用規則 |
電気通信事業法◎ | 放送法 |
---|---|
電気通信事業法施行令○ 電気通信事業法施行規則◎ 電気通信主任技術者規則◎ 工事担任者規則 事業用電気通信設備規則◎ 端末設備等規則◎ |
放送法施行令 放送法施行規則 |
サービス運営法は基本法を基に成立しています、その昔は電気通信事業法に代わり「公衆電気通信法」が定められていました。
この法律は、旧電電公社(現NTT)と旧国際電電(現KDDI)の事業運営を定めたもので、現在では一部の名残を残すのみとなっています。