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では、これらの理論を踏まえた上で、実測した結果の一部を紹介します。ダイオードに1N60、ほぼ無負荷の状態では、理論値とよい一致を示しました。
測定回路は下図のとおりです。安価な測定器を使用しているため、それなりの誤差はあるものと思ってください。
図6.1N60測定回路(無負荷)
図7.1N60検波器(無負荷時)の特性。
ここで、あらかじめ測定しておいた1N60の静特性は、表1の通りです。V-I特性の測定後、ダイオード+内部抵抗の回路モデルを仮定し、非線形最小2乗法(っぽい手法)によって求めました。
逆方向飽和電流 Is | 等価熱電圧 VT | 直列抵抗成分 rd | 測定条件 Condition |
---|---|---|---|
1.04μA | 29.9mV | 145.2Ω | 0.1u ≤ Id ≤ 330μA |
図8.1N60のダイオード特性。
測定する電流範囲や周囲温度によって、算出される $V_T$, $I_s$, $r_d$ はコロコロ変化しますので、まぁ参考程度です。
Memo:なぜか静特性のVT=29.9mVを使うより、VT=26.4mVで誤差が最小とな った。誤差平均6.5%→1.4%。微小電流領域では見かけ上、VTが低下傾向だったので、その影響かもしれない。ただし、低電圧領域は測定器の都合上誤差が多いため、あまり信用できないという問題点があったり・・・
出力側に抵抗Roを接続して検波器に負荷をかけると、当然ながら出力電圧Voは減少します。実験の結果、負荷が重いほど理論値との乖離が出てきました。
図9.1N60負荷特性測定回路
図10.1N60負荷特性
ほぼ、理論どおりの結果が得られました。
誤差も平均で1%程度と、測定器誤差を上回るため良好な結果といえるでしょう。
小信号領域では、理論どおりですが、大信号領域になると測定値に低下傾向が見えました。
0.5V以上の入力振幅において、その低下率はおおむね10%です。
さらに負荷を重くすると、大信号領域での低下率が大きくなりました。
0.5V以上の入力振幅において、その低下率は40%一定ですが、小信号では比較的よい一致を示します。
この理論値以上の低下原因はまだ完全に解明できていません。
少なくとも、回路内のDC電流値とかなり強い相関があり、ほぼ完全に1次比例していることから、ダイオードの内部抵抗成分によるものが主だろうと推測しています。
一例として、1N60以外の内部抵抗が小さいダイオードで実験してみると、低下具合が緩和されます。
下図はrd=2.6Ωという、もの凄く低いrd実測値が出た2SA50による検波結果です。(2SA50はGeトランジスタですが、B-E間短絡によるダイオード接続で使用。1N60は点接触によるSchottky型デバイスですが、この場合はPN junction型デバイスとなる違いあり。)
超優秀な特性に見える2SA50では、1kΩの負荷でも20%程度の低下で済んでいます。低い直列抵抗、高い飽和電流、逆方向漏れ電流(オーム性)の少なさ、素晴らしい対数直線性…最近のSiショットキーバリアダイオードでもこんな凄い特性出ないし…。ただ、指で触れただけで特性が大きく変化する温度特性には驚きました。ま、50年ほど前のデバイスですしねぇ。
逆方向飽和電流 Is | 等価熱電圧 VT | 直列抵抗成分 rd | 測定条件 Condition |
---|---|---|---|
0.821μA | 25.4mV | 2.63Ω | 0.1u ≤ Id ≤ 1.5mA |
まぁ、ゲルマ/鉱石ラジオとしては、ここまで低いRoを使用することは滅多に無いことですので、さほど心配は必要ないでしょう。強いて言えば、強電界地域でスピーカを駆動するような環境ならば、ダイオードの選択によって成否が分かれると思います。
この電圧降下の詳細は今後の探求課題ですが、大雑把には、1kΩまで負荷抵抗を下げると、大信号における入力インピーダンスが低くなるため、直列抵抗成分と信号源インピーダンスがRF入力電圧を下げてしまう影響が大きいようです。
他にも、オシロスコープで観測したときに波形の頭がやや欠けている様子が見えたので、振幅測定値自体にも平均値AC測定器を使用する誤差も生じているようですし、信号の大きさで $V_T$ や $I_s$ も変わるように感じているので、この辺は今後、じっくりと追及していこうと考えています。