電気通信主任技術者制度が始まったのは1985年のこと。電気通信事業法の成立とともに制度化された国家資格です。
電気通信事業を営む企業に必要とされる設備管理用の資格で、一定規模以上の電気通信事業者(NTT・KDDI・ソフトバンクなど)においては選任が義務づけられています。直接的な資格の需要は少ない[1]ですが、有資格者を事業場や都道府県ごとに配置しなければならないため、「必置資格」[2]に分類されています。
現在は、2種類の資格が規定されており、いずれも通信ネットワークの監督業務を行うのが法的な職務です。
最も関連性が高い資格である「工事担任者」が、ネットワークの末端(電話端末)における工事スペシャリストであるのに対し、事業者側のネットワーク設備全体を統括するのが特徴です。
以下の表1は、資格の簡単な早見表です。
資格の分類 | 国家資格(総務省) |
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法的な分類 | 必置資格[2] |
取得方法 | 1)国家試験合格 → ほとんどがこれ。 |
2)養成課程校の卒業 → 2021年現在認定校なし |
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3)総務大臣の認定 → 制度発足時(1985年)のみ |
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受験資格 | なし |
有効期限 | なし(終身) |
取得後の講習等 | 無し(選任中は講習義務あり。) |
試験実施団体 | (一財)日本データ通信協会 |
資格種別 | 2種類(伝送交換・線路) |
受験料 | 18,700円 (全科目受験時) |
試験の特徴 | 全3科目。科目合格制(3年間有効) |
試験形式 | マークシート(多肢選択) |
科目免除 | 国家資格、実務経験、学歴で一部免除あり |
試験開催日 | 年2回(1月・7月)、日曜日 |
試験日数 | 1日で終了 |
難易度 | 電気通信分野の国家資格に限れば、第1級陸上無線技術士と並び、もっとも難しい資格の一つ。理系資格の中では、やや難しい程度。 |
受験地 | 主要15都市(札幌、仙台、さいたま、東京、横浜、新潟、長野、金沢、名古屋、大阪、広島、松山又は高松、福岡、熊本、沖縄西原町) |
受験者数 | 年間 7,000–7,500人程度 |
合格率 | 20%-30% 程度 |
資格は設備の種類に応じて2種類に分かれています。
選任は、事業用電気通信設備を直接に管理する事業場ごとに、その場所へ常に勤務する者から行うことが基本となっています。また、平成23年度からは原則的に「都道府県」ごとにも選任[3]されることになりました。
資格者証の種別 | 事業場の種別 |
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伝送交換主任技術者 | 事業用電気通信設備(線路設備及びこれに附属する設備を除く。) |
線路主任技術者 | 線路設備及びこれに附属する設備 |
まず、線路設備とは、有線通信に使用する光ファイバや電話線とそれに付随する設備を指します。
一般に線路と言えば鉄道を思い浮かべるものですが、ここでの線路は通信ケーブルを指しています。
電柱とその通信ケーブルが代表的な線路設備ですが、見えない所にある地下ケーブルや海底ケーブル、それらを収容する
歩道にある通信用マンホール、ハンドホールも線路設備ですね。
次に事業用電気通信設備ですが、線路設備以外のものという広い概念になっています。具体的には、伝送設備、無線設備、交換設備を中心にサーバや電力設備などが主な対象です。(ただし原則的に『回線』を保有している事業者の設備が対象で、単にWebサーバを置いたぐらいでは対象外です。詳細はこちら)
各資格者の監督範囲は、電気通信回線設備を設置する事業者における設備の工事、維持および運用と定められています。
上記の「工事」や「維持」などの定義については議論の余地もありますが、以下のような解釈が総務省の研究会[4]から報告されていますので。参考に掲示しておきます。
業務 | 左記業務の意味 | 主任技術者の選任が必要な事業場の具体例 |
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工事 | 事業用電気通信設備の新設、変更、修理等、事業用電気通信設備を新たに設置し、又は造作を加えること | 設備の計画、工事(設計、新設、変更、修理等)の実施又は発注、工事管理・監督、竣工検査等の業務を担当する事業場 |
維持 | 事業用電気通信設備を技術基準に適合させ、その機能を本来の水準に保っておくために行う行為 | 設備の常時監視業務、定期的な巡視・点検・検査の計画、評価、品質管理等の業務を担当する事業場 |
運用 | 事業用電気通信設備をその本来の目的に沿って作動させ、操作し、電気通信事業の用に供すること | 設備の運用業務、災害・事故発生時の指揮命令、復旧・修理の指示等の業務を担当する事業場 |
平成27年には、これまで未定義であった具体的な職務も省令で規定されるようになりました。(詳細を見たい方はボタンをクリックしてください。)
「事業用」電気通信設備とは、単なる通信サービス用設備という意味ではなく、特に社会的影響が大きい設備として法律で指定されているものです。
簡単にいえば、有線や無線といった「伝送路」を有する一定規模の通信設備が対象になります。また、固定電話や公衆電話などは社会インフラ(ユニバーサルサービス)として規模とは無関係に事業用設備として指定されています。
なお、「事業用」だからといって電気通信主任技術者の選任が必要とは限りません。ユーザ数やサービスエリア、役務種別によっては経験者の配置でよい場合もあります。
その一方で、ISP(インターネット サービス プロバイダ)事業者は「電気通信事業者」ではあるものの、「事業用電気通信設備」を保有する例は多くないと思われます。一般には回線部分を別事業者から借用するからです。
その他、Webサーバや掲示板、通販系のサイトではそもそも「非電気通信事業」として扱われるのが一般的と考えてよいでしょう。
多種多様なサービスが提供されている現在、どのようなサービスや設備が、法規制に該当するかを判断するのは意外に難しく、総務省の解釈資料(ガイドライン)として「電気通信事業参入マニュアル(追補版)」(PDF)が公開されています。
平成27年度においては全事業者合計で、約1千名程度と推測される。(根拠:平成27年度電気通信主任技術者定期講習の受講者中、選任者数データ(978名)より。出典:日本データ通信 No.208, 2016, p.21)なお、当該年度は講習制度の開始年度のため、資格取得直後(交付日から2年以内)に選任された者を除き、選任者全員に受講義務があった。
平成23年10月14日 総務省発表(検査検定、資格認定等に係る利用者の負担軽減に関する調査<調査結果に基づく勧告>資料6 資格制度概況調査結果の分類)に基づく。なお、工事担任者は「業務独占」に分類。
平成22年2月26日 総務省令第11号による改正(電気通信主任技術者規則3条1項2号)。ただし、平成27年3月6日 総務省令第12号によって、公衆無線LANアクセスサービスについては選任義務を除外する規制緩和策が採られた。
平成21年2月18日 総務省「IPネットワーク管理・人材研究会」報告書の公表 本文第5章 p.43
2019年2月現在、NTTぷらら、ニフティ、ビッグローブ、楽天の4社が指定されている。平成27年8月7日 総務省告示第278号、平成29年5月9日告示160号、、平成29年9月29日 告示322号、平成30年6月13日告示199号