鉱石/ゲルマラジオの検波回路には多彩なバリエーションがありますが、その最も基本的な類型は直列型検波器と並列型検波器の2種類です。
図1.直列型検波器
この直列型は非常にポピュラーなもので、ダイオード検波、あるいは包絡線検波器といえば大半がこの形式に属します。
図2.並列型検波器
一方、図2の並列型は非常に古い時代からよく使われたもので、現在でも無線回路用としてまだまだ現役です。この回路を使用する最大の理由は、直流をカットできる事にあります。
例えば、受信機の増幅回路には直流が重畳されている箇所が数多くありますが、このような場所からキャパシタ1個で気軽に出力を取り出せるのが魅力です。
しかも、ダイオードの向きを逆にするだけで単電源の回路から負電圧も取り出せるメリットがあります。
図3.並列型検波器の適用例
図1と図2の回路は、理論的に見て全く同じ低周波出力が得られます。実際、増幅器のあるようなラジオ回路だとあまり実感が湧かないと思います。
では何が違うのか?
その一つ目は、並列型の出力に高周波が乗ることです。ですので、実際には低域フィルタ (LPF: Low Path Filter) で高周波成分を抜く回路を後段に付加するのが一般的です。ただし、ゲルマ/鉱石ラジオではイヤホンぐらいしか負荷がありませんから、フィルタは不要と言えるでしょう。
二つ目、これが最も大きな違いになりますが、並列型は入力インピーダンスが低下します。これは選択度と感度に大きく影響します。
図1、2では交流電圧源という電力無制限の贅沢なインプットを想定していたので同一出力が得られたのですが、実際には図4のように同調回路の影響を考慮しなくてはなりません。
図4.同調回路を考慮した電源への置き換え
同調回路が共振している時の並列検波回路は、図5のような等価回路に置き換えることができます。
図5.同調回路と並列型検波器
一般的なゲルマ/鉱石ラジオを考慮した場合、図5の $R_s$ は小さくても十数kΩ、Qの高い同調回路だと数百kΩはあるでしょう。
例えば、 Q=200 のコイルを使った同調回路で、AM帯で一般的な L=330μH を想定すると、1MHzでの $R_s$ はおよそ 200kΩ です。算出には以下の式を利用できます。 \[ R_s=2\pi f L Q \]
なぜ並列型の入力インピーダンスが低下するのかは、入力のRF電流の経路を考えるとわかります。
図6.並列型におけるRF電流経路
図6に示したように、検波回路の負荷抵抗 $R_o$ が、そのまま高周波の負荷としても作用してしまうわけです。この経路に流れるRF電流は単なる熱となって全く検波出力に寄与しませんし、さらにはQまで低下させてしまうという厄介な回路なのでした。
十分な入力RD電圧が印加された時の検波回路インピーダンスは、$R_o/2$ 程度になりますから、等価回路的には図7のように考えられます。
図7.並列型回路における高周波等価回路
並列型の入力インピーダンスは直列型より67%に低下し、Qも同程度の低下が生じます。結果として、検波出力は4割以上低下することになります。
直列型検波回路の方が、並列型よりもゲルマ/鉱石ラジオに向く。
回路上、特に必要がなければ直列型を使用する方が良いようです。