包絡線検波器(ダイオード検波器)の理論解析(付録)

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理論式の導出過程

単純な、図1の回路を考えます。

ダイオード検波器の回路モデル

図1.ダイオード検波器の回路モデル

ダイオード特性は、一般的なダイオード電流式(式1)に従うとします。

I_d = I_s \left(e^{V_d/V_T}-1 \right) (1)

ここで、各記号は以下の通りです。

Id :ダイオード電流
Vd :ダイオードの両端電圧
Is :ダイオードの逆方向飽和電流
VT :ダイオードの熱電圧
e :自然対数の底

VTは、熱に関係する定数で、式2で定義されます。kはボルツマン定数、Tは絶対温度、qは電荷素量で、室温では26mV程度が標準値ですが、放出係数あるいは理想係数と呼ばれるnが1〜2の値であるため、等価的に26mV〜52mV程度の値となります。

V_{RF}= V_c \cos (\theta) (2)

もっとも、定数のふりをしているIsは温度に大きく影響されますので、ご注意。以下は、静特性の測定結果の一例です。半導体は品番が同じでも全く同一の特性が出ることはまず無いですし、温度や測定条件に大きく左右されますので、あくまで参考に過ぎません。

表1.各種ダイオードの静特性の例
ダイオード種別 Is VT 測定条件 Condition
1N60 1.04μA 29.9mV 0.1 ≤ Id ≤ 330μA
2SA50 0.821μA 25.4mV 0.1 ≤ Id ≤ 1.5mA
1SS108 3.55μA 27.1mV 18μ ≤ Id ≤ 4.5mA
1S2076 10.0fA 28.0mV 0.1μ ≤ Id ≤ 4mA
SB0030-4A 8.43nA 25.9mV 0.4μ ≤ Id ≤ 4.5mA

また、図1の回路の負荷キャパシタCは、入力RF周波数に対して完全に短絡状態であると仮定します。

簡単のためにRF入力電圧を振幅Vcの正弦波とすると。

V_{RF}= V_c \cos (\theta) (3)

すると、ダイオードの両端電圧Vdは出力DC電圧Voと入力RF電圧の差となるので、

V_d = V_c \cos (\theta) - V_o (4)

式4を式1に代入し、交流一周期の平均を取ると、ダイオードに流れる直流電流成分Idcが求められます。

I_{dc} = \frac{1}{2\pi} \int^{\pi}_{-\pi} I_d \ d\theta (5)
I_d = I_s \left[ \exp \left(\frac{V_c \cos(\theta)-V_o}{V_T}\right) -1\right] (6)

式5、式6を実際に積分すると、

式7-1
I_{dc} &= I_s \left[ e^{-\frac{V_o}{V_T}} \ \mathrm{I_0} \left(\frac{V_c}{V_T}\right) -1 \right] (7)

途中、コサインを含む積分式を、第1種0次変形ベッセル関数に置き換えています。

0次変形ベッセル関数 (8)

式7で、ようやくDC電流値が求められたのですが、出力電圧Voを求めていきたいため、Voを中心に変形して両辺を対数化し整理します。

式8−1

最終的に、Voについてこれを解くと、検波回路の出力電圧式が式9の形で得られます。

 V_o = V_T \ln \left[ \mathrm{I_0} \left(\frac{V_c}{V_T} \right) \right] - V_T \ln \left( 1 + \frac{I_{dc}}{I_s} \right) (9)

ところが、この式9右辺にあるIdcは出力電圧Voの関数です。なぜなら、Vo/RoがIdcであるからです。そこで、全てVoの表現に書き直すこともできます。

V_o = V_T \ln \left[ \mathrm{I_0} \left(\frac{V_c}{V_T} \right) \right] - V_T \ln \left( 1 + \frac{V_o}{R \cdot I_s} \right) (10)

式10は、非線形方程式であるため、シミュレーションぐらいしか解く方法がありません。ダイオード検波器の難しさはここに起因しているのだと思います。

特に、興味深いのは、出力電圧VoあるいはDC電流値Idcに任意性があることです。本ページでは、抵抗Rのみがそれらを決める条件と仮定した導出をしているのですが、2次側に信号を印加する条件も適用できたりします。

要するに、1次側の入力が2次側に出力されるだけでなく、逆の経路もあるということ。もっとベタな言い方ならば、検波器は変調器としても動作するという表現になるでしょう。

本式のより詳細な説明は、包絡線検波器の理論解析1を参照してください。